「ソフィア?」
 先日ソフィアに見つかってしまった家族写真を持ってアーサーが先ほどの部屋に戻る。が、そこにソフィアの姿はない。
 「ソフィア?…ソフィア?!」
 (まさか、出て行ったのだろうか?うまくいっていると思っていたのに?!)
 信じたくない。だが、この場にソフィアがいないのだけは事実だ。
 (どこだ?) 
 すぐに部屋を出て周りを見渡すがどうも見当たらないようだ。
 「ソフィアっ。ソフィアっっ。どこだ!!」
 思わず大きな声で叫ぶアーサーの声に、使用人たちが何事かと各仕事の手を止めて廊下へと出てきた。
 「―――だ、だんな様?!」
 そう言って飛び出してきたのはソフィア自身だった。談話室から出てきたのだ。
 「ソフィア!!」
 やや慌てた様子のアーサーだったが、ソフィアを見て安心したように歩調を緩める。
 「だんな様、どうしたんですか?」
 「い、いや。―――それより、なんでこの部屋へ?」
 アーサーがあごで談話室を指すと、ソフィアはふあっと笑ってみせる。
 「せっかくだんな様が写真を取ってきて下さるというので、この部屋のどこに写真を置こうかと思って色々考えていたんです。」
 よかったら、いかがですか?
 そう問いかけるとアーサーはソフィアに促されるがまま、ソフィアが談話室の模様替えに着手後初めて足を踏み入れた。
 (暖かい。) 
 それがこの部屋に足を踏み入れた第一印象だった。
 あれだけぬくもりが絶えて久しい邸だったのに、ソフィアがこの部屋の模様替えをしてくれただけで印象がずいぶん変わっている。
 『ただの家具』が置かれていた場所だったはずなのに、ソフィアが選んだ家具、色彩をふんだんに使った敷物、布、クッション。そこかしこにソフィアの気遣いが見える。
 
 そして、暖炉の上。
 ソフィアが家族と写した写真が置いてある。―――本当に嬉しそうに笑っていた。
 「…ご両親と、妹君、か?」
 アーサーがその写真たてを取り上げながら呟いた。
 「えぇ。―――そして、」
 ソフィアがアーサーのもう片方の手からアーサー自身が寝室から持って来た写真たてを並べた。
 「これが、だんな様のご家族の写真。」
 ソフィアのその言葉にアーサーが眼を見開いた。
 「ソフィア…。」
 「これからどんどん、ここに写真を増やせていけたらいいですね。」
 そう言ってにっこりと笑った。それも嬉しそうに。


 ―――それは、どういう意味だろう…。
 アーサーの心の中にそんな言葉が浮かんだ。
 (もしかしたら、少しは許してくれるてのだろうか?あんな振る舞いをした私を??)
 聞いてみたい。
 そう思った。
 「ソフィア。それはどういう意味か聞いてもいいだろうか?」
 「え?」
 「『これからどんどん、ここに写真を増やせていけたらいいですね。』と言うのは。」
 「それは…。」
 「それは、―――私を許してくれるという事だろうか?」
 アーサーの言葉に、ソフィアはゆっくりと振り返った。