「ソフィア様。こちらの本棚はいかがなさいますか?」
二人が親密な時間をすごした数日後。ソフィアは再びアーサーの妻としてシュメール侯爵家の談話室の模様替えに着手していた。
以前とはほんの少し変わった日常が待っていた。この邸の女主人として今まで同様、使用人を気配りしながら指示をしていく。食事メニューをマルヘイユ夫人を考え、そしてこの談話室の模様替え。これらは以前ソフィアがしていたのとまったく変わってはいない。
違っているのはソフィアとアーサーとの関係だ。
以前全くと言っていいほど会話のなかった二人だが、アーサーとの時間を夕食後にとるようになったのだ。
アーサーから話しかけることもあるし、ソフィアからの時もある。
今までの時間を埋めるかのように毎日二人きりで過ごすのだ。
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「そういえば、談話室の方の模様替えはどうなっているのだ?」
初めて、その部屋の話題が出るようになったのもこの頃だ。以前は本当に無関心だったようだが、今はそうではないようだ。自分のしていることに関心を示してくれたアーサーの態度が何となく嬉しい。
「大分、形にはなってきてます。」
「どんな感じなんだ?」
「まぁ、まだ見てはらっしゃらないんですか?」
「あぁ。出来上がるまで楽しみにしておこうと思ってね。」
そう言って片目を閉じてみせる。今までには見ることはなかったそんな砕けたアーサーの姿が垣間見れるようになった。
(少し嬉しい気がする)
ちょっとずつ、歩み寄りを見せてくれているアーサーの姿が本当に嬉しかった。
「ねぇ、だんな様。―――改めてお願いがあるんです…。」
「何だ?」
「お写真をいただけないですか?」
「写真?」
「えぇ。
「ご家族の写真…です。だんな様の。談話室に飾らせていただきたんです。」
「ソフィア…。何故、と聞いてもいいだろうか?」
「だんな様を大切に育んでくださったご家族ですもの。談話室に大切に飾らせてくださいませんか?」
その言葉にアーサーは目を見開いた。許された気がするのは気のせいだろうか?
「あと、写真を飾るだけなんです。―――だんな様と私の家族写真を飾れば終わりなんです。」
にっこり笑ったソフィアにアーサーは釣られるように微笑み返す。
「分かった。…持ってこよう。」
そう言って自分の寝室に向かうアーサーの背を見届けて部屋を後にする。
少しずつ少しずつ。
二人の距離が近づいていく。
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