「…ここに、だんな様のご家族の写真が飾りたかったんです、ずっと。」
ソフィアはアーサーの家族の写真たてを手に取る。
「この部屋の模様替えを決めたときからずっと思っていたんです。ここにだんな様のご家族の写真と私の家族の写真、そしてこれからの私たちの写真を飾りたいって。」
もう一度写真たてを暖炉の上に戻し言葉を続けた。
「―――もう、許していますわ。というより、私の騎士様との思い出を大切にしてくださっていたことに本当に感謝しています。」
「ソフィア…。」
「本当の事、話してくださったときから許していました。―――それにだんな様がお兄様に対する想いも分かりましたし。」
ソフィアの言葉にアーサーはホッと息を吐いた。
「それでも、そなたに対する私の態度は本当に悪かった。」
「それは…。」
「それに対してそなたに許しを得てから、もう一度やり直したいと思っている。」
アーサーもソフィアの家族の写真たてを自分の写真たての横に静かに置いた。そして大きく頭を下げた。
「本当に悪かった。―――すべてを知って私ともう一度やり直してくれないか?」
「だんな様。」
「もう一度、今度はちゃんとした夫婦として、二人で家庭を作っていかないか?―――いや、作ってほしい。この部屋のような温かい家庭を。」
アーサーのその言葉にソフィアは背伸びをして、その首にかじりついた。」
「はい。―――はい、だんな様。二人で温かい家庭を、作りたいです。」
ソフィアから初めて抱きつかれ、しばらく戸惑っていたアーサーがしっかりとソフィアの体を抱きこんだ。
「…ありがとう。」
アーサーは声を詰まらせ、そう呟いた。
その日。
初めてソフィアとアーサーが一緒に主寝室に姿を消した。
******
「ほら、レオン。お父様が帰っていらっしゃいましたよ。」
4年後。
主寝室に小さなベッドが入れられていた。そのベッドには子供が寝かされていた。
「レオン。帰ってきたぞ。」
そういいながら、アーサーが子供を抱きあげる。
『レオン』という名前は、アーサーの兄でありソフィアの大切な『騎士様』から名前をもらった。男の子が産まれたときにアーサーとソフィアとが相談して名前を決めたのだ。
アーサーのその様子にソフィアがそのそばで嬉しそうに微笑んでいる。
「―――アーサー、お帰りなさい。」
「ただいま、ソフィア。」
そう言ってレオンをベッドに置き、ソフィアに口付けた。ゆっくり抱きしめると右手でソフィアの大きくなってきているお腹をゆっくりとなでた。
「大分、大きくなってきたね。」
二人にとって『二人目』が入っているお腹を愛しそうになでるアーサーの手の上にソフィアが手を重ねる。
「まだまだ、これから大きくなりますわ。」
嬉しそうに微笑んで応えるソフィアの頬に手をかけ、顔を上げさせた。
「…温かい家庭をありがとう。」
そっと、唇をもう一度重ねた。
「私こそ、ありがとうございます。だんな様。そして、これからもよろしくお願いします。」
そう言って笑むソフィアを優しく優しく抱きしめた。
アーサーとソフィア、そしてレオン。
三人だけのこの空間が二人にとって何よりも大切な時間だった。
ソフィアが手がけたあの談話室の暖炉の上には、所狭しと写真たてが増えていた。
そして、それはこれからも続いていく…。
〜 月華 完 〜
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