「では、ずっとこのまま?」
 そう思い切って問いかけた。…ずっとこのままなら結婚している意味はない。そう思う。
 「―――このままなら…。」
 「いや。このままではもう、いられない。」
 このままならソフィアが自分から離れていくのをアーサーは痛切に感じているのだ。
 (いつまでも過去に、レオンにこだわっているわけにはいかないのだ。)
 レオンのことを気にせずに前向きに。それが唯一ソフィアを手に入れることが出来る方法なのだ。

 「―――ソフィア…。もう一度、やり直させてくれないか?」
 「え?」
 「もう一度、一からやり直させてくれないか?今度はちゃんとした夫婦として。」
 そう真摯に話すアーサーは、いままでのアーサーとは少し違っている気がする。
 「…わ、たしは…。」
 「急がなくてもいい。私がそなたにしてきたことを考えると、すぐにその気にはなれないだろう?だが、せめてこの邸から出て行くのは待ってはくれないだろうか?」
 「―――。」
 「…それとも、無理だろうか?それほどまで私はそなたに大きな傷を残してしまったのだろうか?」
 ―――私はどうしたいのだろう? 
 今までそんなことを考えたことはなかった。
 (アーサーともう一度、今度は夫婦としてやり直せる?)
 この結婚について初めて自答自問する。今まで流れに流されるがまま、この結婚を続けてきたし、それが当たり前だと感じていた。だが、アーサーのこの問いに改めて自分自身で向き合うことになる。
 「そなたの意思で、この結婚に応じてほしい。それまで待つ。―――だがこの邸から出て行かずにこのままこの邸に留まって、ゆっくりと女主人としていてくれないか?」
 ソフィアはアーサーの重ねてくるこの提案に戸惑いを感じていた。
 
 この時代。
 女性の意思などまったくと言っていいほど無視されているこの時代に、アーサーの提案は本当にびっくりするし戸惑いを感じる。が同時に、そんな風に気遣ってくれるアーサーの言葉が本当に嬉しく思う。
 (少しは大切にされている、のかしら?)
 確信はない。が、そう思わせる何かがアーサーの内にある。

 「―――駄目だろうか?」
 真剣に問うアーサーにソフィアはしばし考え、そして首肯した。言葉が出ない。―――嬉しくて。
 「……はい。このままここでお世話になっていいですか?」
 おそるおそる確かめるように応えるソフィアにアーサーは気恥ずかしそうに視線を反らす。
 「あぁ。―――ありがとう。」
 アーサーは言葉とともに大きく息を吐いた。
 どこにも行かず、もう一度ここで一からやり直すことが出来る。
 それが、例え白紙の状態からであっても…。
 
 「では、ソフィア。やり直す手始めとして、抱きしめてもいいだろうか?」
 一言断ってから、アーサーは初めてソフィアの背中に腕を回してそっと抱きしめた。
 無理やり、でも力ずくでもなく。
 ソフィアが抗ったらすぐに外せる位の力で…。
 
 ソフィアは抗うようなことはせず、そのまま目の前にあるアーサーの胸に自分の頬を軽く押し当てた。
 ホンの少しの時間。
 二人はただ抱き合って過ごしてたのだった。