―――ソフィアに、妻の座より、メイドで居たいと思われていたとは…。
アーサーはここ数日、仕事の合間の少ない休憩時間に、ずっとそんなことを考えていた。
この書斎は先日立ち聞き(?)したように、アーサーが不在中にソフィアが毎日掃除をしてくれているのだ。
その証拠に、ついこの間までは殺風景だった書斎に一輪挿しの花瓶がそっとその存在が気づかないような部屋の端に置かれ、2日に1回は花が代えられていた。
今まではなかった事だ。
それだけで、アーサーのことを気遣ってくれているソフィアの気持ちが分かる。
(だが、それと妻の座とは別物って事か…。)
アーサーを気遣いはしても、妻として夫に対して三行半を突きつけた。
アーサーはそう理解している。
ソフィアがメイドとして、この邸留まっている理由などアーサーには分からなかった。
ソフィアがメイドとして、この邸に留まっている事をアーサーが知っている事実。
それさえも、
マルヘイユ夫人には聞けない。
否、聞くことなどアーサーの矜持が許さなかった。
所詮、どこまで行っても貴族なのだ。身内とはいえ、妻に三行半を突きつけられた理由などアーサーはマルヘイユ夫人に聞けるわけはない。
2日に1回、花が代えられている。
それだけが、アーサーがソフィアの存在を感じ取れる。唯一の手がかりだ。
―――今日もまた、花は代えられていた。
部屋の隅にある花瓶を見つめて、アーサーは胸を撫で下ろした。
(とりあえず、居てくれる。見放されたわけではない。)
そんな些細なことでホッとする自分が、アーサーは何故だか可笑しかった。
書斎の机に向かい、仕事をしている最中。
ふとペンが止まる。
ペンが止まるたびに、ソフィアのことを考えてしまう。
(このままでは、いけない。)
それは、アーサーにも分かっていた。
たとえどんな言葉を投げかけられるにせよ、ソフィアと向き合って話し合わなければならないだろう。
(目の前で三行半を叩きつけられて、『夫、失格』と言われるとしても…。)
このままで良いはずはない。
―――もし、子爵の娘と侯爵という身分の違いが、彼女をこの邸に縛り付けている楔となっているのなら…。
開放してやらなければならないだろう…。
アーサーがどれほどソフィアをそばに置きたい。妻として必要としている。
そうであっても、ソフィアがそれを望まぬならば…。
―――諦めるしか、ない。だろう…。
それが、今のアーサーに出来る最善の方法だとす思っていた。
そして意外にも早く、その機会は訪れた。
それもアーサーの寝室という、意外な場所で…。
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