「秀樹、話がある」

放課後
部活へ行く前
隆成が秀樹に声をかける。

2人は西日の差し込み始めた
空き教室に移動していた。


「美奈となんかあっただろ」
隆成の問いに
秀樹が軽く息を吸って
「・・・うん」
やっぱり、分かるよな。
という感じで
軽く首を縦に振る。

「なにがあった?」
隆成は表情を変えずに
でも、穏やかに
さらに問う。
そんな隆成を前に秀樹は
「・・・好きだって言われた・・・」
後ろめたさを隠せない様子でうつむき加減で答える。

「それで?」
「それでって・・・」
「今日の様子だと応えてやってないんだな」
秀樹が小さくうなずくと
隆成の表情が険しくなる。

「なんでだよ。オレが美奈を好きだからとか言うんじゃねぇだろうな?」
努めて
声を荒らげないようにしている隆成だが
「・・・・・・・・・」
図星なのか
秀樹は返す言葉がない。

なにも言わない秀樹に業を煮やした隆成は
「ボケッ!!」
我慢できなくなった様子で声を荒らげた。
そう言われて
「なんだよ!」
珍しく、秀樹が怒りの表情になる。

「オマエだって美奈のこと好きなくせに、オレに譲ろうってのか!?」

ハッとした表情の秀樹を見て
「オレが気付いてねぇとでも思ってたのかよ・・・」
隆成が呆れたように言い捨てる。

2人の間にしばらくの沈黙が訪れ・・・
秀樹が少しツラそうに口を開く。

「・・・オレはオマエを親友だと思ってる。抜け駆けみたいなことしたくなかった」
それを聞いた隆成はますます険しい表情になる。

「そらどうも!でもな、美奈はオマエがいいっつってんだよ!だいたい、オマエの美奈への気持ちって譲れる程度のものなのかよ!?」

「そんなわけねぇだろ!美奈を好きな気持ちは絶対オマエにも負けない!!」

思わず口から出た本音に
秀樹は驚いたように
サッと口元を覆った。

「アホ。間髪入れずにそう言えるくらい強い気持ち持ってるくせに譲ろうとしてんじゃねぇよ。美奈にちゃんと言ってやれ。オレに遠慮すんな」

秀樹の本音を聞いて
落ち着きを取り戻した隆成は
秀樹の背中を押すように言った。

「・・・わりぃ・・・」
「ボケ、謝んな」
「なんつーか・・・オレ、情けなさすぎ・・・」
「そうだよな。美奈も見る目ねぇよ。オレの方がお買い得なのに」
隆成がそう言って宙を仰ぐ。
「うん・・・オレが美奈だったらオマエ選ぶ」
「うわっ・・・わりぃけど、その気持ちには応えられんわ」
ニカッと隆成のいつもの笑顔。

「おら、美奈帰って行くぞ!」
窓からはグラウンドを横切って帰って行く美奈の姿が見えた。