「じゃーん!」

隆成が紙切れをひらひらさせている。

「あ!」
「そ、プロ野球のチケット。今度の土曜、ちょうど練習休みだし3人で行かね?」
「うわ〜!3人で出かけるなんて初めてじゃない?楽しみっ」
わくわくしちゃう!
「あ、オレその日、用事あんだ。2人で行ってこいよ」
「秀樹、行かないの?」
「せっかくだけど・・・悪いな」
そう言って秀樹が手刀を切るようにした。


こうして、隆成と2人で行くことになったんだけど・・・
当日
1時試合開始。
練習が見たいから開門と同時の11時に球場に入るため
10時に駅で隆成と待ち合わせ。
早めに待ち合わせ場所に着いた。
2人で出かけるとか・・・
なんだか・・・
デート
みたいだよね・・・。
そう思ったら・・・
うわっ!
そ、そわそわして来ちゃった!

が、待てど暮らせど隆成が来ない・・・。
結局、30分待った。

「わりぃわりぃ」
へらへら笑いながら隆成の登場。
「ホントにわりぃよ!遅すぎ!!」
そわそわもすっかり消えちゃったよ!

「きのう、なかなか寝付けなかったんだよ・・・」
隆成がボソッとそう言ったその言葉は
私には聞き取れてなかった。

「え?」
「なんでもねぇよ!」
そう、ピシャッと言い放つ。
ホントにわりぃと思ってんの?

最寄駅から電車に乗って
ちょうど1時間で球場に到着。
開門と同時に着く予定が
隆成のおかげで30分が経過していた。

「オレ、なんか買って来るわ」
11時半、ちょうどお昼時。
「もちろん、おごりだよね?」
「ハイ!おごらせていただきます!」
隆成は敬礼をするみたいに
おでこの辺りに手を当てて
売店に買い出しに行った。

全席指定席だから
スタンドはまだ人がまばらだ。
グラウンドではビジターのチームが
バッティング練習をしている。
私、これを見るのが結構好きなんだ。
試合に出ない選手もグラウンドに出てるしね。

バッティング練習をひとりで見ていると
隆成の席と逆側に人の気配を感じた。

「あ、ひで・・・」

と言いかけてハッとする。
もちろん、全然知らない人だ。
「・・・じぃって花輪くんの執事だったかなぁ・・・?」
なんて、ひとりごとみたいに言ってみる。
我ながら苦しすぎるごまかし方だ。
その全然知らない人は笑ってる。

全然ごまかせてないし!
もう・・・恥ずかしすぎるっ!

いつも3人でいるのが当たり前すぎて・・・
秀樹がいないこと
一瞬忘れてた・・・。
なんか、少し寂しいかも・・・。

「なに赤い顔してんだよ」

隆成にそう言われて
少しびっくりしてそちらを振り向く。
隆成は両手いっぱいに
焼きそば、お好み焼、カレー、唐揚げ、フライドポテト、焼き鳥・・・
大量の食糧を抱えている。
売店のメニューとりあえず全種類って感じだ。

「どんだけ食べんのよ」
私、苦笑いしちゃう。
「育ち盛りですから♪」
そう言っていつものようにニカッとする。
「好きなの食っていいぞ」
「ありがと」
私は一応短くお礼を言って
焼きそばを選ぶ。
目玉焼きトッピングだ。

「ねぇ、隆成はどこの高校行くの?」
「甲子園行けるとこ」
隆成は早くもカレーを半分平らげていた。
「その先は?」
「わからねぇよ、そんなこと」
あは、私も一緒だった。
「秀樹は大学行ってプロ入りたいって言ってた。隆成はプロ行きたいって思わない?」
「別に。生活かかった野球は大変そうだからな」
そう言いながら、カレーを食べ終えて
お好み焼に移っていた。

今の
中学生のセリフ?
意外と・・・現実見てるんだな・・・。
『メジャーがオレを呼んでるんだぜ!』
みたいなこと
自信満々に言うのかと思ったのに・・・。
なんか、隆成には似合わないセリフだな。
秀樹と隆成が逆になったみたい・・・。

そんなことを思っていると
今度は焼き鳥をくわえている。
ってゆうか・・・
ちゃんと噛んで食べてるのかなぁ?