月曜日のランチタイム。

「あー!今日、卵焼きねぇじゃん!」

隆成がパンの袋をがさがさ開けながら言う。
「そんなの、お母さんに言ってよ」
「オレ、オマエのかーちゃんと結婚してー」
突然の意味不明な発言に
「は?」
思わず、ぽかんとしてしまう。
「だって、毎日卵焼き食えんじゃん♪」
隆成は満面の笑み。
「うげー!隆成がお父さんなんて絶対ヤダー!!」
私、心底イヤな顔をする。
「とーちゃんは『うげー!』なんて言葉使う娘に育てた覚えはないぞ!」
隆成が眉間にしわを寄せてそう言う。
「ぎゃはっ!その顔、チョーウケるー!!」
両手を叩いて大爆笑。
「なんだ!その下品な言葉は!」
隆成はさらに私のお父さんを続けながら
私の両方のほっぺをつねる。
「ひゃー!いはい!はいへーー!!」

なんて、バカなことをやってると・・・
「おーい、人をパシらせといて先に食うなよ」
トンッ☆
机に私が頼んだいちごみるくと
隆成が頼んだ三角コーヒー牛乳が置かれた。

4時間目の授業が終わると
即行で教室を出て行こうとした秀樹を見つけた隆成が
「秀樹ー!オレ、三角コーヒーな!」
と言うので
「私、いちごみるくー!」
私も便乗して買って来てもらったのだ。

「あー、秀樹くん、ごめんね〜」
隆成がヘラッとしながら、秀樹に謝る。
「肉団子あげるから〜」
私も同じようにヘラッとしながら
ピック刺しの肉団子を差し出す。
秀樹は私が手に持っている肉団子に
そのままパクつく。
「うまい?」
「ふん」
秀樹が
コクン
首を縦に振る。
なんかちょっとかわいい。

「美奈ちゃん!オレも肉団子!」
「ダーメ、2つしか入ってないんだから!」
隆成がちょっとむくれた顔をする。

「秀樹ちゃ〜ん、さっきなんの用だったの〜?」
隆成が気を取り直して
冷やかしモードに入る。
「え?」
「授業終わったら、いっそいで出て行こうとしたじゃーん」
「なんでもいいだろ・・・」
秀樹は少しバツが悪そうだ。
「女の子だろ〜?」
隆成がニヤニヤしながらそう言った。
秀樹の表情が一瞬、固まった。
「わっかりやす〜♪」

また、女の子に呼び出されてたんだ・・・。
秀樹がモテることなんて最初から分かってるけど
なんだろ?
このもやっとするような
ひりひりするような気持ちは・・・。
今まではなんとも思わなかったのにな・・・。


「それより、土曜日の試合どうだった?勝っただろ?」
秀樹が話題を変えたそうにそう言った。
私も話題が変わって少しホッとする。

「あっ!ちょっと聞いてよ!隆成ってば30分も遅刻するし試合中寝てるんだよ!!そんで、斜め前の6番の背中にアタマから突っ込んだの!!」

そう
隆成は試合前
食べるだけ食べてお腹がいっぱいになったせいか
3回くらいになると前後に揺れ出して
5回にはついに前のめりになって
斜め前に座ってたタテジマの6番のユニフォームを着た人の背中に
豪快な頭突きをかましたのだ。

「もういいじゃねぇかー・・・何度も謝っただろ」
隆成がまたむくれてる。
「私、めちゃくちゃ恥ずかしかったんだからね!!」
「あははははは!隆成らしいよ!」
珍しく秀樹が涙目になるくらい大爆笑してる。
それを見て、こないだ秀樹が声を上げて笑ってた時のことを思い出した。

「あ!ねぇ、秀樹!これ!」
「あー、こないだのブサイクなウサギ・・・」
「ブサイクって失礼しちゃう!私のイメージだって言ったくせに!」
「そんなこと言ったか?」
「言ったよー!でも私、なんかこれ気に入っちゃって♪」


そんな風に私と秀樹が楽しげに話している様子を
隆成が思い詰めた表情で見ていたことなど
私は知る由もなかった。