試合は3-1で紅組が勝った。

「おらー!だらだらしてねぇでとっととやれー!!」
負けた白組はグラウンド整備と片付けだ。

「隆成、なんか荒れてんな・・・」
「フラれたんじゃねぇの〜?」
同じ白組の部員がひそひそ話をしていると
「おらぁ!そこ!なにこそこそやってんだよ!」
隆成の怒鳴り声が飛ぶ。

隆成が浮かない表情で
はぁ〜・・・・・・
と、大きなため息をついていたころ・・・


「おいしー!おっちゃん!すごくおいしいよっ」
「お嬢ちゃん、いい舌してるねぇ!」
紅組は長坂ラーメンでラーメンを食べていた。

「また紅白戦やる時、声かけてね!」
「うん。でも、もうあと1〜2回かな。3年は引退だからな」
私、ハッとする・・・。
「そうかー・・・もうみんなで野球できなくなっちゃうんだね・・・」
私たちも一緒にいられなくなっちゃうんだ・・・。
秀樹の言葉で初めてそのことを意識した。


ラーメンを食べ終わって外へ出ると
もうすっかり暗くなっていた。

「私、こっちだから」
そう言って、秀樹ん家の方と逆方向を指差す。
「そっか、じゃ、送るよ」
「えっ、悪いよっ」
「いいって、送る」
そんな優しい笑顔で言われたら
ドキッとしちゃうじゃない・・・。

「秀樹はどこの高校受けるか決めてるの?」
いつも一緒にいるけど
こんな話、したこともなかったんだよね・・・。
さっき初めて意識した
“一緒にいられなくなっちゃうこと”
を実感したくなくて
避けてたのかもしれない・・・・・・。

「いや、でも甲子園行きたいから、そういうとこ何校か考えてる」
「やっぱり最終的にはプロ?」
「そうだな、小さい頃からの夢だし、大学行って自信つけてプロんなれたら・・・サイコーだよな!」
秀樹の笑顔がキラキラしてる。
夢を持ってる人って素敵だよね。

「美奈は?」
今度は秀樹が私に聞く。
「そんな先のことは分からないけど・・・高校野球のマネージャーやりたいなって。甲子園は行けても行けなくても球児くんたちの夢のお手伝いしたいんだ・・・」
って、自分で言っておいて
ちょっと照れくさくなって来た・・・。
だけど、秀樹は優しい笑顔で聞いてくれた。
隆成だったら・・・大爆笑だよね、きっと・・・。

「今日はいろいろありがと」
いろんな話をしてたら あっという間に家に着いちゃった。
「どういたしまして」
「じゃ、また明日学校でね」
私、そう言って家の門扉に手をかけると

「美奈」

秀樹に改めて名前を呼ばれて
ドキン
心臓が軽く跳ねる・・・。

「なに?」
「・・・・・・・・・」

しばらく、沈黙が続く。
秀樹がなにか言おうとしたけど
ぐっと言葉を飲み込んだように見えた。

と、思ったら
「ひゃぁっ!?なにっ!??」
私のアタマをぐしゃぐしゃっとなでて
「がんばれよ!」
笑顔でそう言って走って行ってしまった。
がんばるって・・・なにを?