両手でアタマを抱えて
とりあえず防御の体勢で
ギュッ
目をつぶる。

次の瞬間

「イヤだなぁ、おじさん。オレ、そんな趣味ないのよ」

秀樹の声が聞こえて
目を開けると
目に入ったのは
秀樹の背中・・・。
私の盾になってくれていて
おじさんにしっかり手首を握られちゃってる。
おじさんはゾワッとなった様子で
パッと秀樹の手首を離した。
その隙をついて
秀樹は片手に荷物
片手で私の手を引いて走り出す。

「まてーーー!!!」

おじさんが大声を上げて追いかけてくる!
「しっかり走れ!捕まるぞ!!」
「もー!ヤダ〜!!」


かなり走った。
もう二度とこんなに早く走れないってくらい走った。
学校に向かう坂道の途中に
私たちは座り込んでいた。

「美奈っ大丈夫か?」
さすがの秀樹もすごく息が上がっている。
私は声が出せなくて
うんうんとうなづくのがやっと。

「しっかし、しつこかったよな〜。めちゃくちゃ体力あるぜ、あのおっさん」
秀樹がカッターシャツの胸の辺りを
パタパタさせながら言う。
私はなんとか声が出せるようになって
「うん、それに・・・あの趣味の悪いアロハ!」
そう言うと
2人で顔を見合わせて、思い出して大笑いしちゃう。

「なんか、たのし〜」
「楽しくなんかないぞ!オレはヒヤヒヤしたんだからなっ」
「ご、ごめん・・・」
「まぁ、なんともなくてよかったよ」
秀樹はそう言って
立ち上がって伸びをした。

「秀樹、どうもありがとう」
私の言葉にふっと笑って手を差し出した。
「どういたしまして」
私は秀樹の手を取って立ち上がる。

「美奈?」
「あっ、ごめん・・・」
立ち上がった後も
しばらく秀樹の手を握りしめていた。
無意識に・・・。
秀樹の声に我に返って
パッと手を離す。
心臓がドキドキ言ってる・・・。

「帰るかぁ」
私はこんなにもドキドキしてるのに
秀樹はなにも気にしてない様子だ。

「あっ!!」
「どうした!?」
「荷物、置いて来ちゃった・・・」
ようやく、自分が手ぶらなことに気付いた。
引かれていたのと逆の手には
あのブサイクなウサギのぬいぐるみ・・・。

「オレ、取りに行って来るから、この荷物、持って行けるものだけ運んどいて」
「え?そんな、悪いよ!」
「いいからっ!あのおっさん、まだその辺にいるかもしれないし」
そう言うと秀樹は走って行ってしまった。


終礼ももう済んでしまったころ
なんとか荷物をげた箱のところまで運んだ。
2往復した。
こんな重い荷物持って
私の手引いて走ってたんだ・・・。
そう思うと
ふとさっきのことを思い出して
また、ドキドキしてしまう。

なんだろう?
この動悸は・・・。

「美奈!」
そんな気持ちに浸っていると
突然声をかけられて
ドキーッ!
として顔が熱くなる。

「あ・・・隆成・・・」
すでに練習着に着替えている。
「オマエら、なにぐずぐずしてんだよ」
ちょっとあきれたような顔だ。
「元はと言えば、隆成がパシらせたせいじゃない!」
熱くなってる顔を手で隠し覆いながら
いつも通りに装う。

「それより秀樹は?」
「ちょっと荷物取りに・・・」
思わず、顔がヘラッとしてしまう。
「今日、月イチの川沿いのグラウンド使える日なんだけど・・・」
「えっ!?」
「戻ったら急いで来いっつっといて」
隆成はそれだけ言って
走って去っていった。

今日、そんな大事な練習の日だったんだ・・・。
なのに・・・
私、秀樹に迷惑かけまくりだよね・・・・・・。