6月に入ってそろそろ文化祭の準備を始める時期になった。
我が松陵中学では夏休み前に文化祭が行われる。
この日の6限目は担任の授業ということもあって
文化祭の準備に当てられていた。

「秀樹!美奈!オマエらにはオレのしもべとして働いてもらう!」
隆成はお祭男ということもあり
文化祭の実行委員を任されていた。

「ってことで、買出し行って来い」
「は?なんで私たち・・・」
「しもべだからだろ♪」
全然納得の行かない理由を叩きつけられ
秀樹と2人、買出しに行くことになった。

学校から10分くらいのところの商店街で
手早く買い物を済ませて
「買うもの、これだけか?」
買い物リストを確認。
「えっと・・・うん、全部買った」

秀樹は両手に荷物を抱えている。
私は片手に比較的軽めの手提げひとつ・・・。
秀樹、やっぱ優しいよね〜♪
なんて思いながら
秀樹のあとを歩いていた。


「うわー、かわい〜!」
ファンシーショップのショーウィンドウに
かわいいネックレスを発見☆
「どれ?」
秀樹もショーウィンドウを覗き込む。
「あれ!」
私、ウィンドウにへばりついて
イルカのネックレスを指差す。
「美奈も女の子だな」
秀樹がふっと笑顔になる。
「そーよ!私だってレディなんだからっ」
私、胸を張ってそう言う。

「美奈はどっちかっていうと、こういうイメージだけどな」
隆成がよくするようなニカッという表情をした秀樹が
なにかを投げてパスしてきた。
受け取ると・・・
ブサイクなウサギのぬいぐるみ・・・。
秀樹の私のイメージってこれなのか・・・。
「失礼しちゃう!」
「あはははは」
秀樹が声を上げて笑う。

「これ、どうしたの?」
「そこに置いてあった」
そう言って指差す方を見ると
ゲーセンの店先に置いてある
UFOキャッチャーの中に同じぬいぐるみが
たくさん入っていた。

そんなことをしていると・・・
「学校サボってデートかしらっ」
なんて、通りすがりのおばさんたちの小声が聞こえた。

デ、デート!?
なんだか照れくさい・・・。
その照れくささを隠そうとして
今度は私がニカッとして
「私たち、彼氏彼女に見えるのかなっ?」
と言ってみた。
すると
秀樹はひと呼吸置いてこう言った。

「隆成の方がよかった?」

「え?」
秀樹?

「さて、早く帰ろうぜ」
「あ、うん・・・」
なにごともなかったかのように
いつもの秀樹に戻ったけど・・・
さっき一瞬、秀樹の表情が強張った。
秀樹のあんな顔、見たことない・・・。
なんで、そこに隆成が出てくるの?

なんだかもやっとした気持ちを残したまま
荷物を持ち上げようとした時
バランスを崩して後ろによろけ
ドンッ!
人にぶつかって、尻餅をついた。

「すみませーん・・・」
そう言いながらそのまま後ろを向くと
めちゃくちゃ怖そうな
パンチパーマにサングラスで
アロハ着たおじさんが!!
しかも、私がぶつかった拍子にそうなったのか
逆さになった缶ビールがアタマの上に乗っていて、びちゃびちゃ。
明らかにアタマには怒りマークがついている。

「ひっ!!」

声にならない声が出た。
「お嬢ちゃん・・・ちょっと来てもらおうか」
私を見下げながら
ニヤニヤしながら
おじさんがにじり寄って来て
ぬおっ
手が伸びて来た!

きゃーーー!!!