お箸と一緒に
気持ちもじゃぶじゃぶ洗って
平常心を取り戻して
教室に戻る。

「うわっ!お弁当が・・・!!」

私のお弁当箱には
キャベツの千切りと白ご飯とバラン
しか入っていなかった。
卵焼きひとくち食べただけだったのに・・・。

「アホ菌がついてたヤツ、全部食っといてやったぞ」
隆成が口をもぐもぐさせながら言う。

「・・・っ!おーのーれー!隆成!アンタの弁当出せ!!」
「もう全部食った」
隆成がまたニカッとする。
なんてヤツ!!
ってか、食べんの早すぎっ!!
こんなヤツがモテるなんて絶対ウソだ!
さっきのドキドキ返せー!!

「秀樹!なんで止めてくれなかったの!?」
「イヤ・・・オレも少し食ったから・・・」
秀樹が隆成みたいにニカッとする。
秀樹まで!
でも、ここからが違う!

「オレの弁当半分やるよ」
秀樹が笑いながらそう言って
ぱかっ
お弁当箱のふたを開ける。

「秀樹〜・・・神さまに見えるよ〜」
私、半分涙目になっていた。
「オマ・・・泣くほどのことかよー!!」
隆成はゲラゲラ大爆笑。


「隆成!」
大爆笑の隆成がクラスの男の子に呼ばれた。

「んあ?」
「あの子、オマエに用あんだって」
そう言って、指差した先は教室の出入口。
そこには2人の女の子・・・下級生かな?
手前にいる女の子の顔が真っ赤だ。
「あいよ〜」
隆成がそう言って席を立つ。

な・・・んだろう?
あの様子だと・・・

「気になるか?」

教室の出入口にいる
隆成と女の子をガン見していた私に
秀樹がそう言った。

「う・・・まぁ・・・」
気にならないと言えばウソになる。
「最近よくあるんだよ、ああいうこと」
由枝ちゃんが言ってたの
本当だったんだ・・・。

「秀樹は元々モテるじゃない?彼女・・・いないの?」
このまま、隆成の話をしているとなにかボロが出そうで
話題を秀樹に転換してみる。
「・・・毎日こうやって美奈と隆成の世話してるのに、彼女とデートしてる時間があるように見えますか?」
秀樹のスマイルが飛び出した。

彼女がいたら、正直ショックだ。
こんなにいつも一緒にいるのに話してくれないなんて・・・。
でも、それ以外の意味でも
私、ホッとしてる?
そして・・・
秀樹スマイルにドキッとしてしまったことも隠したくて
「世話って!隆成と一緒にしないでよ!」
私、そう言って
秀樹のお弁当の唐揚げをお箸で
グサッ
突き刺していた。



数日後
「ひゃ〜!急がなくっちゃ!」

私は今日、日直で
さっきの授業の国語のノートを集めて
職員室に持って行かなくちゃいけなかったんだ。
次の授業は体育なのに!

急ぎ足で更衣室に向かっていると
こないだ隆成を呼び出していた子たちが
前から歩いて来る。
すれ違いざまに
たぶん、付き添いの方の子が
私に聞こえるようにこう言った。

「柏木先輩も野村先輩も独り占めしてずるいよね!」

ドクンッ

心臓がものすごい音を立てる。

向こうは振り返っているような気配がしたけど
私は聞こえなかったふりをして先を急ぐ。


今日の体育は持久走。
長距離は苦手だけど
今日だけはこの時間が長距離でよかった気がする。
走るだけなら考えごとしながらでも走れるし・・・
さっきのことが気になって
集中できない・・・。

独り占め・・・

私・・・そんな風に見られてたんだ。
そんなつもり、全然ないのに・・・。

だけど・・・
2人に彼女ができちゃったら
私たち、今みたいには
いられないよね・・・。
そんなの寂しい。
ずっと、今のままでいられればいいのに・・・。

でも・・・
あの子があんなこと言うってことは
隆成、断ったんだよね・・・。
そのことに少し・・・
ううん
だいぶホッとしてる自分がいる・・・。

あの子が言う通り
私、2人のこと
独り占めしてるのかな?


でも
私はまだ気付いていなかったけど
この時すでに
気持ちは
傾き始めていた。