「大丈夫か?」

その声が聞こえたかと思うと
ひゃ〜!!
あたしの周りにいた女子たちが
サーッと波が引くように後退りする。

久須美先輩・・・・・・。

「ほら、おぶされ」
先輩があたしの前に立て膝ついて背中を向けた。
「だっ・・・大丈夫です!」
あたし、そう言って立ち上がろうとしたけど
「いったぁ〜っ!!」
予想以上の痛みに思わず叫んで
またその場にぺたんと座り込む。

「そんだけ腫れてて大丈夫なはずないだろ?」
「で・・・でもっ!」
「お姫さまだっこがご所望ならそうするけど?」
首だけ後ろに向けた先輩が
ひょうひょうとした様子で言った。

あうっ・・・!
それよりかは・・・・・・。

「失礼します・・・」
確かに全然大丈夫じゃないし・・・
恐る恐る先輩の背中におぶさる。
さすがにみんなの視線が少し痛いけど
お姫さまだっこよりはマシだ・・・。


「重くないですか?」
「全然」
先輩に背負われたあたしは保健室に向かっている。

今って
気持ち伝える絶好のチャンスだよね?
でも・・・
どうしよう・・・。
いざその時になると
なんて切り出せばいいか分からないよ・・・。
心臓だけじゃなくて
全身がドキドキしてる・・・・・・。
背中から
伝わっちゃってないかな?

「綾部」
「はいっ!」
いろいろ考えてたら
先輩の方から口を開いて
驚いて声が裏返っちゃった。
クスッと笑った先輩が話し始める。

「部活来なかったのってオレのせいだよな?」

やっぱり・・・気にしてたんだ・・・・・・。
『そうです!』
なんて言えないよね。

「だったら、少しうれしいかな?」
えっ?
「今まではなんとも思われてなかったのに、意識してくれてるってことだもんな」
先輩が感慨深げにそう言った。

「綾部には迷惑だろうけど、あきらめたくない。再起不能になってもいい。自分自身であきらめつくまで頑張りたいんだ」

先輩はまっすぐ前を向いたままだったけど
その語気で
その気持ちが
どれほどのものなのかが伝わる・・・。

「オレ、やっぱり綾部のこと・・・」

先輩がそこまで言ったところで・・・

ぎゅっ・・・

先輩の背中から首に腕を回してそっと抱きつく。
「あや・・・べ・・・?」
先輩、少しだけ顔をあたしの方に向けて
突然のことに戸惑ってるみたい。


「3度目の告白はあたしからさせてください・・・」


1度目は朝練の体育館。
あまりにサラッと言われて
一瞬だけそうかと思ってしまったけど
ありえないと思い込んですぐに打ち消した。

2度目は屋上。
まっすぐにあたしを見据えて言ってくれた。
それでも信じられなくて
先輩を怒らせてしまったんだ・・・・・・。


先輩の顔を見なくても
驚いてるのが伝わる。
あたしは
ゆっくり口を開く。

「・・・あれ以降、あたし、先輩のことばっかり考えてるんです。廊下で見かけると、無意識に柱の陰に隠れちゃったりして・・・めちゃくちゃ意識しまくってるんです。胸がドキドキして苦しくなる。今も・・・心臓が口から飛び出そうなくらいドキドキしてます・・・・・・。それが自分らしくなくてすごくイヤなんだけど・・・でも、それ以上に・・・・・・」

うるさいくらいにドキドキいっていた心臓が
一瞬、止んだ。


「あたし、先輩が好きです」


恥ずかしくて恥ずかしくて・・・
さらに先輩の首に回した腕に力が入って
先輩の肩に顔をうずめてしまう。

先輩のふっと笑った息が
あたしの髪にかかった。


「ありがとう、オレも綾部が好きだよ」


先輩は顔を上げられないあたしのアタマを
ポンポンってしながら
そう言ってくれた・・・・・・。