ガクッ!
張り詰めていた緊張が一気に緩んで
固い屋上のコンクリートにへたり込む。
なんだよ・・・。
なんであんなこと言うんだよ・・・。
あたし、メンエキないんだから
どうすりゃいいか分かんないよ・・・・・・。
先輩・・・怒ってたよね?
あんな険しい顔した先輩、初めて見た・・・。
だけど
心臓のドキドキが止まらない・・・。
きっと今、顔真っ赤だ。
ものすごく・・・熱い・・・・・・。
その日からやっぱり部活に顔出し辛くて・・・
男バレと女バレ
別々とはいえ
どこで顔合わせるか分かんないしな。
あれからずっと、サボってる・・・・・・。
校内で先輩を見かけることがあっても
とっさに身体が反応して
無意識に身を隠してしまう。
どっかにセンサーが埋め込まれてるんじゃないかと思うくらい
目ざとく先輩を見つけてしまうようになっちゃってる・・・。
今日も部活サボって
地元の駅に着くとまだ4時。
改札を出たところで
「あやちゃん!」
後ろから声をかけられて
思わず
ドキィッ!
としてしまう。
「まどか・・・」
「あやちゃんが部活行かないなんて・・・こないだから様子おかしいし・・・なんかあったの?」
心配そうな顔をするまどかの後ろには帆風がいる。
そうか、今日は月曜日だ・・・。
あの日の昼休みのできごと
まどかとなちには言わなかった。
あのあと、しばらく屋上で気持ちを落ち着けてから
授業が始まるギリギリに教室に戻った。
さすがに時間かかりすぎてたから
不審に思われたんだけど
『虫のせいかなぁ?お腹痛くてトイレで頑張ってたんだっ!』
なんて言ってしまった。
ホント、女子の欠片すら微塵もないあたし・・・。
女子は“トイレで頑張ってた”とか言わないよね?
こんなあたしのなにがいいんだろう?
もう・・・アタマん中、ぐちゃぐちゃ。
あたし自身、そろそろ限界だ・・・・・・。
「まどかぁ〜・・・あたし、もうどうしていいか分かんないよぉ〜・・・」
そう言ってまどかに泣きついていた・・・。
駅の近くの公園のベンチに座って
帆風が買ってくれたジュースで気持ちを落ち着ける。
なんか、前もこんなことあった気がするな・・・。
あの時は逆だったけど・・・。
「そっかー・・・久須美先輩、あやちゃんのこと好きだったんだー」
もう全部を話し切ると、まどかが言った。
改めて、人にそう言われるとやっぱりテレが生じる・・・。
「あやちゃんはどうしたい?」
「だから、どうすればいいのか分かんないんだよ・・・」
「ん〜・・・じゃあね、久須美先輩のこと、好き?」
「すっ・・・!」
今のあたしのイチバンのテレワードだな。
それだけで真っ赤になってしまった。
「好きか嫌いかで言えば、好き・・・だけど・・・・・・」
「だけど?」
「それは・・・恋愛感情ではない・・・と思う・・・」
「なんでそう思うの?」
「たぶん、尊敬とかそういう意味での“好き”だから・・・」
「それでいいんじゃない?」
「でも、先輩に言われたんだ。『オレにとっては恋愛感情でなければ、なんでも同じだよ』って」
あたしがそう言うと
まどかがあたしを見据えた。
「尊敬する気持ちが恋愛感情に変わるのって、そんなに難しくないと思う」
「そう・・・かなぁ?」
「あやちゃん、尊敬できない人を好きにはなれないよ」
まどかのそのセリフに
思わず目を見開く。
「私は帆風くんのこと、教科書ちゃんと見て授業もちゃんと聞いててえらいなーって思ってたんだ。始まりはそこだった。それって尊敬に近い感情だよね」
「オレも・・・まどかは器用でオレが苦手なこと、全部できてすごいと思った」
帆風がにっこり微笑んでそう言うと、まどかがほんのり赤くなった。
「なんだよ!勝手に2人の世界に入ってんじゃないよ!」
あたし、思わず苦笑いしながらそうツッコんでた。
テレて焦った様子のまどかが続ける。
「あ・・・だからね!私はハタから見てるだけだけど、あやちゃんのその気持ちは久須美先輩の気持ちと結構近いんじゃないかなって」
「なんでそんなこと言えるの?」
「なんとも思ってなかったら、そんなに悩まないでしょ?」
まどかにそう言われて
目からウロコがボロッとこぼれる気がした。
「あやちゃん、問題即解決!が信条じゃない?でも、今回、すっごい慎重になってるよね。いつものあやちゃんだったら、むげに断ってると思うなぁ〜」
まどかがニカッとした。
「まずは・・・どっちにしろ、あやちゃんの気持ちをちゃんと整理して、久須美先輩に伝えなくちゃね☆」
そ・・・うだよね。
なにか、先輩にちゃんと言わなくちゃ・・・。
「どう?糸口見えた?」
「まどか先輩!」
あたし、まどかに抱きつく。
「え!?突然なに!?」
「アンタ、ふわふわしてるだけかと思ったら、ちゃんと考えて生きてんだね!」
「えー?なにそれ?失礼じゃない?」
そう言いながら、まどかは笑っている。
「あたし、まどかのこと大好きだよー!」
「私もあやちゃん大好きだよー!」
あたしたち、お互いに抱き合っちゃう。
チラッと帆風に視線をやると
うらめしそうにこっちを見ていた。
 
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