そう思って
ギュッと強く目をつむって
防御の姿勢を取ったけど・・・
あれ?
なにも衝撃が起きない・・・?
恐る恐る目を開けると・・・
「久須美くん!?」
久須美先輩がハルさんの振り上げられた右手首を後ろから掴んでる。
女バスたちがめちゃくちゃ焦ってるのがわかる。
あたしはまだ状況がよく掴めてない感じ。
「く・・・すみ・・・くん・・・・・・」
「綾部になんの用?」
久須美先輩がハルさんに険しい表情で訊ねる。
「・・・・・・」
ハルさん、なにも言えずに黙ってしまった。
「久須美くん、ハルの気持ち知ってんでしょ?」
業を煮やしたのか、付き添いのひとりが口を開いた。
「だったら、なに?」
先輩、今度はそう言った人に視線を向ける。
「知ってるなら、なんで久須美くんの口から『ただの噂だ』って言ってあげないの!?」
やや強めの口調で先輩に投げかけた。
「気付いてはいるけど、直に言われたわけじゃない。付き合ってるわけでもないのに、弁明しなきゃいけないのか?」
落ち着いている先輩の毅然としたその発言に
女バスの3人がたじろぐ様子を見せる。
「それに・・・」
先輩がさらに続ける。
「確かに今は『ただのウワサ』だけど、オレにとっては違うんだ。『ただのウワサ』で終わらせたくないと思ってる」
えっ・・・?
「・・・それって・・・・・・」
ハルさんが恐る恐るって感じに聞くと
「うん」
先輩はしっかり返事したあと
あたしをまっすぐに見据えて告げる。
「オレ、綾部が好きなんだ」
この世に存在するはずのない文字列が
先輩から発せられた。
呆然と立ち尽くすあたし。
と、女バス3人。
しばらく、なんとも言えない沈黙が続いたけど・・・
「ハルっ!」
ハルさんがその場から走り出して
あとの2人が追って校舎へ入って行った。
そりゃ・・・
いたたまれないよね・・・・・・。
ずっと好きだった人が別の子を好きだって言うの聞いちゃって・・・
しかも、こんな男女なあたし・・・・・・
あたしっ!?
えっ?
えぇっっ!??
「あ・・・あのっ・・・・・・」
「ごめん、驚かせて・・・」
先輩が苦笑いする。
「えっとー・・・」
なんだ?
なんだ??
これは、どういう展開だ・・・?
・・・・・・
あ・・・そうか・・・
これはあたしを助けるため・・・
だよね?
「あのっ・・・助かりました。ありがとうゴザイマス」
とりあえず先輩にお礼を言っておく。
「冗談だと思ってる?」
「えっ?」
「好きだって言ったこと」
「冗談・・・じゃ・・・ないんですかーーー!??」
あたしの大声が空にこだまする。
「冗談じゃない。マジだよ」
「えっ?なんで??先輩があたしみたいな跳ねっ返りの虫食べちゃうような男女を・・・?なんで!?」
なにがなんだか分からなくなってパニックに陥る。
そんなあたしとは対照的に
すごく落ち着いてる先輩。
「やっぱりな・・・嫌われてはないだろうと思ってたけど、『ただの先輩』にしか見られてないんだ」
「『ただの先輩』ではないです!すごく尊敬してます!」
「でもそれは恋愛感情じゃない。オレにとっては恋愛感情でなければ、なんでも同じだよ」
先輩の真剣な瞳・・・。
イケメンが余計に際立って
きっと誰だって
ドキッ!
としてしまうと思う。
あたしだって・・・例外じゃない。
そのドキドキがあまりに自分らしくなくて
それがなんだか嫌で・・・
思わず
こんな言葉が口を衝いてしまった。
「先輩、正気ですか?」
先輩の顔色が一瞬にして変わった。
「・・・マジだっつってんだろ・・・・・・!」
険しい表情と口調に
ビクッ!
身体が硬直してしまった。
いつもの優しくて穏やかな先輩と全然違う・・・。
先輩はあたしの横をすり抜けて
扉を開けたかと思うと
バンッ!
大きな音を立てて閉め
校舎に入って行った。
 
|