「ちわーっす!」

放課後。
いつも通り、なにも変わりなく部室を訪れる。

「あやーっ!」
「あや先輩!!」

扉を開けた瞬間
みんながあたしにドッと詰め寄る。

「久須美先輩とデキてるってホントなの!?」

ここでも今朝の光景が繰り返される。
今日は1日、あたしの周り
この話題で持ち切りだ。
他クラスの女子にまで詰め寄られる始末。
徐々に話に尾ひれやはひれが付き出して
ついに
“デキてる”
ってとこまで来たか・・・。

「ひとつ聞くけど、それがホントだったらどうするつもり?」

あたしの方もだいぶ対処に慣れて来た。
最初は否定するばっかりだったけど
こうして聞けば
ただのウワサだって納得してもらえることがよく分かった。
学習するもんだな。

「許さないよ!」
「断固反対です!!」
「久須美先輩と男女のあやだなんて・・・地球がひっくり返ってもありえない!!」

・・・ちょっと・・・
いくらなんでもひどくない?
そこまで言うことないじゃないよ・・・。
あたしだって、お年頃の女の子なんだぞ?
さすがのあたしもちょっと傷付いちゃう・・・。

「・・・だから、分かった?ありえないんだよ。全部デマ」
ため息混じりにあたしがそう言うと

「でも、久須美くんは否定しなかったらしいよ?」

いつも温和で冷静な女バレのキャプテン・麻子先輩が言った。
いつも、一歩引いたところから状況を見守ってるって感じなんだよね。

っていうか・・・

「えーっ!?なにそれ!?」
「久須美くん、認めちゃったの!??」

また部室内が騒然とする。

先輩・・・なんで否定しないんだよぉ〜・・・。
先輩だってあたしとなんか、迷惑じゃないのかよ〜?

「認めたわけじゃないけど、否定もしなかったって。彼のファンは過激な子もいるからね〜。あやちゃん、しばらく大変だよぉ〜」

麻子先輩はそう言ってにっこり微笑んだ。
あたしは背筋がゾッとした・・・。



「綾部!」

その日の部活中、久須美先輩に声をかけられる。
先輩の方を向くと
「バッチリじゃん!」
爽やかな笑顔で親指を立てていた。
これ、先輩のファンの子たちならきっと悩殺だよ・・・。
って思うような笑顔だ。

「先輩のおかげです♪」
今朝、先輩が指摘してくれたところだったんだよね。
さっそく、修得できちゃった。
あたしもうれしくて、同じように親指立てたりとかしてみる。

そんなことをしていると
ふと、視線を感じた。

体育館の高い天井から緑のネットが吊るされていて
それが体育館を真ん中から2つに割っている。
今日はバスケ部が隣でやってんだよね。
そのネットの向こうのバスケ部の女子たちが
あたしをめちゃくちゃ怖い目つきで睨んでたんだ!

マジ、怖すぎるんだけど!!
まどかみたいな子だったら、泣くぞ・・・。
なんでこんなに睨まれなきゃなんないんだよ・・・。


人の噂も75日。
こんなことがしばらく続くのかと思うと
げんなりした気分になってしまった・・・・・・。