ある日の朝。

今日は朝練ないけど
絶好調の感覚が楽しくて
ひとりででも練習しようと思って体育館に行くと・・・
誰か・・・いる?
ひとりで壁打ちしてるみたい。

誰だろ?

電気が点いてなくて薄暗いから
シルエットしか分からないけど
体育館の出入口からしばらく様子を伺ってみると

あ、久須美先輩だ・・・。

先輩ってすごく上手だけど
ちゃんとこうやって努力してるんだよね。
うん、やっぱり尊敬できる先輩だ。

邪魔・・・しない方がいいよね。

そう思って、そのまま立ち去ろうとしたら

ガンッ!
ガランゴロンガランガラン・・・

お約束のようにバケツに蹴躓いてしまった。

うっわ〜!しまったぁ〜・・・。

当然、壁打ちをしてたボールの音が止んで
先輩がこっちに来る気配がする。

「あれ?綾部?」
「あー・・・あはははは!おはようございますっ!!」

私、いつも通り・・・
よりちょっとおおげさに明るく元気に挨拶する。

「おはよう、どうした?こんな早くに・・・今日は女子も朝練ない日だろ?」
「先輩こそ、早いですね!」

時計はまだ6時半を少し回ったところ。
すでに着替えて壁打ちしてたってことは
6時くらいには学校来てたんだろうな。

「オレはヘタだからね。できるだけたくさん練習したくて」
「ヘタなんて!そんなことないじゃないですか!!」
「ううん、こないだ、全国レベルのチームと練習試合しただろ?その時、実感したんだ。まだまだだってね」
先輩がそう言ってにっこり笑う。
すごいなぁ〜・・・。
常に上を見てるんだね。

「綾部は?」
「あたしは・・・少しでもボールに触れていたくて☆」
「あはは!綾部はホントにバレーが好きなんだな」
「はい!」
「んじゃ、いっちょ、しごいてやるか!」
「え?」
「早く着替えて来いっ!」
先輩のイケメンがニヤリとした。

そうして、先輩と一緒に練習することになった。
先輩は教えるのもすごくうまくて
1時間ちょっとだったけど
スパイクスピードが増した気がする。

「すごいな、綾部の吸収力!教え甲斐があるよ」
「先輩こそ!今すぐ指導者になれますよ!!」
「おいおい、オレはまだまだ現役でやりたいんだけど・・・」
先輩が苦笑いする。
「あっ、違います!引退させたいとかじゃなくて・・・」
弁解しようとしたけど
そんなこと、先輩だって分かってるよね。
あたしも笑ってしまう。

「綾部っていつも明るくていいよな」
「そりゃー“みんなのあやちゃん”ですから!元気だけが取り柄です☆」
あたし、そう言って両腕でガッツポーズを作ってみせる。

すると 先輩の顔がふっとほころんだ。

「オレ、綾部好きだな」

さすがのあたしも一瞬

「えっ・・・?」

固まってしまったけど・・・

しっかりしろ!
そういう意味じゃないだろ!!

「ホントですかぁ!?ありがとうございます♪」

一瞬でも勘違いしそうになったことが恥ずかしくて
それを振り払うようにいつものトーンで明るく言っていた。

先輩が苦笑いしながら
「・・・今はまだそれでいい・・・かな?」
ボソッと言った言葉は
「えっ?」
あたしにはちゃんと聞き取れてなかった。

「いや、こっちのこと」
先輩のその笑顔が少し複雑そうに見えたのは・・・
うん、きっと、気のせいだ!


「あ、もうこんな時間か!」
先輩が時計を見てそう言うと
あたしもつられて時計に目をやる。
「ホントだ!急いで片付けなきゃ!!」
もう8時を回っていた。

片付けが済んで急いで更衣室へ向かおうとすると
「綾部!」
先輩に呼ばれて振り返る。
「なんですかー?」
「またやろうな」
先輩の爽やかな笑顔がそう言った。
「はい!またお願いします!」
あたしも元気に笑顔で返してた。