文化祭の打ち合わせが終わって帰り道。
どんな写真を出展しようかいろいろ考えながら
電車から家の最寄駅に降りて
ホームを改札に向かって歩いていると

「すいません」

後ろから
男の子の声が聞こえて振り返る。

・・・誰?

一瞬の間に
アタマの中を駆け巡るけど
記憶と合致する顔がない。

でも・・・
なかなかのイケメン。
背も・・・180はあるな。
この制服は・・・
私の学校の最寄駅から
もうひとつ向こうの駅にある高校のだ。

「突然呼び止めてごめんね」
にこっとする笑顔が
余計にイケメンにする。

「オレ、松本隆久って言って小塚高校の3年なんだけど・・・」
3年・・・同い年か。
私、無意識に募集要項と照らし合わせて行く。

「ずっとキミのこと気になってて・・・よかったら付き合ってくれないかな?」

えっ?
“付き合ってくれないかな?”

本当に突然のことに
思考回路がついていかない。

「えーっと・・・?」

彼に呼び止められてから
初めて言葉を発した。

「ごめん、突然すぎて驚くよね」
彼が苦笑いしてる。
「あ・・・はあ・・・・・・」
なにをどう言っていいのか分からない。
「とりあえず、友だちからでいいし、これ、オレの携帯だから」
そう言って、メモを渡される。
「よかったら連絡して。じゃ!」
それだけ言うと、さっさと改札の方へ走って行ってしまった。

なんだ?これは・・・?

渡されたメモを眺めながら
立ち尽くしたまま さっき起こったことを脳内で反芻すること数分。

私・・・コクられた!?
えっ!?
えええぇぇぇぇ〜〜!!?

ようやく、状況が飲み込めてきた。
あのイケメンにコクられたんだ・・・。
コクられたことは何度かあったけど
こんなとこで
よその学校の人になんて初めてだ。
ヤダ、顔が赤くなってニヤけてきちゃう・・・。

イケメンだし、長身だし、同い年だし!
B芯がしっかりしていて頼りがいがある。
これは・・・かかわってみないとわかんないけど・・・
ここまでは全然クリア!
とりあえず、友だちからって言ってたし
連絡・・・してみる・・・・・・?

その場に突っ立ったまま
ひとり、テンションが上がりまくってしまった。

きのうから
あれだけ桜太でいっぱいだったのに
そんなこと、もう全然吹っ飛んでた。



「おっはよーん♪」

私にしてはありえないくらいのテンションに
まどかもあやも驚いて目を見開いてる。

「アンタ・・・きのうとえらい違いじゃない?なにがあったの?」
不審なものを見るような目つきであやが尋ねる。
誰にどう思われようと
今の私にはどうだっていい。
だって・・・

「ふふっ、私、彼氏できちゃった♪」
「ええっ!!?」

まどかとあやの声がハモった。


きのうの夜
さっそくあのメモのアドレスにメールした。

『今日、駅でメモもらった那智和歌子です。お友だちからよろしくお願いします♪』

なんてメールすればいいのか全然分からなくて
1時間もかかったわりにはあっさりした文面。
でも、即行で返信がきた。

『マジ!?ホントにいいの!!?やばっ・・・めっちゃ嬉しいんだけど・・・・・・これからよろしくね☆』


駅でのことがあったときは
もう、桜太のことなんて全然アタマになかったのに
家に帰って少し冷静になると
桜太のことが余計に溢れてたまらなくなった。
だから、吹っ切ろうと思ってメールしたんだ・・・。


「桜太・・・じゃないよな?」
あやが恐る恐るって感じに確認する。
「うん、よその学校の人」
「いつ?どうやって!?どこのどいつよ!?」
聞きたいことが山ほどある!
って感じに詰め寄ってくる。

親友なんだし、隠すつもりもないから
声を掛けられたときのことから
名前や学校の情報も洗いざらい話した。