翌朝。
「まどか、これありがと」
教室で
まどかに借りていたお弁当箱を返す。
「え?なんでなっちゃんが・・・?」
不思議そうな顔をするまどか。
まどかが不思議そうにするのは当然だ。
今、そのお弁当箱は
桜太の手元にあるはずのものだから。
「ん、ちょっとね」
短く笑顔を返して
教室を出る。
家に持ち帰ったお弁当とクリームパン。
結局、自分で全部食べた。
捨てるなんてもったいないことできないしね。
おかげで晩ご飯を食べきるのがしんどかったけど。
なかなか、おいしかったんだよ。
まぁ、まどかに手伝ってもらったから
おいしいのは当然か。
今度同じもの作れって言われて
できるとは思えないから今回限りだな。
「ちゎーっす!」
お昼休み。
毎度の桜太の登場だ。
「今日も来たねー!もう1日1回アンタの顔見ないと寝られないよ!」
「じゃ、土日が練習休みだと寝不足ですね!」
これも毎度
おもしろくないあやとのコントを繰り広げながら
桜太が私の机の前の席に腰を下ろして
クリームパンの袋を開ける。
「和歌ちゃん?なんか、元気なくない?」
私はきのうの今日で
桜太を見られなくて
ひたすらお弁当箱の中を見て食べていた。
ひとつも桜太と目合わせてないのに・・・
“元気ない”って分かっちゃうんだ・・・・・・。
ってか
アンタのせいなんだけど・・・。
「いつも通りだけど」
「そう?っていうか・・・怒ってる?」
そう言いつつ
私の顔を覗き込む。
ヤダ・・・
顔、見られたくない・・・。
「怒ってない!」
思わず、声を荒らげてしまう。
「怒ってるじゃん・・・オレ、なんかした?」
桜太の顔が悲しそうな犬みたいになる。
なんかしたけど してない。
私は怒れる立場にないし
怒っても仕方ない。
でも
きのうのやり場のない気持ちは
まだ、私の中に充満したまま・・・。
「ごめん、ホントに怒ってないから・・・」
どうにかそう言って
お弁当を食べ続ける。
まどかが心配そうに見守っていることは
言うまでもないけど
こっちはそうはいかない。
「なち、アンタ今日おかしいよ!なんかあったんでしょ!?あったよね!!?」
あやが黙ってるはずない。
親友ながら
こういうときは
ちょっとめんどくさいと思ってしまう。
「なんもないよ!」
まして
桜太のいるところで言えるわけないし。
私はお弁当を食べ終えて
席を立つことにする。
「あっ!逃げるなっ!」
「逃げるんじゃない!部室行くの!!」
私がそう言うと
桜太も席を立って着いて来ようとする。
「文化祭の打ち合わせだから、アンタ来たって入れてやらないよ」
意識していつもの調子を作る。
「しゅーん・・・」
桜太が下唇を突き出してしょんぼりする。
それ、口に出すの?
っていうか
今の私が
そんな気分なんだけど・・・。
なんだか重い気分を引きずりながら
部室へ顔を出す。
「こんちはー」
「あれ?少年は?」
少年って・・・
もちろん、桜太のことだ。
お昼休みに部室行くときはたいがい引っ付いて来るし
放課後だって練習の合間に顔を出す。
「打ち合わせなんだから、邪魔でしょ?」
雑多的に物が置かれている長テーブルのパイプ椅子に
腰を掛ける。
「私たちは別にかまわないけど?」
「そーそー、桜太くん、いい子だしね〜」
「もうほとんど部員ってくらい顔出してますよね」
「掛け持ちでいいから、入部してくんないかなぁ?」
「なち、勧誘してくんね?」
みんなが口々に勝手なことを言う。
部員は全部で10人そこそこ。
幽霊部員も2〜3人いるから
桜太はそれよりも出現率が高い。
そりゃ、部員は喉から手が出るほどほしいとこだけど
桜太なら私はごめんだ。
「イヤ!それより、打ち合わせ始めようよ!」
どこへ行っても桜太桜太。
もう、いい加減にしてほしい!
今は特に・・・。
 
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