水族館に着くと
2台あるエントランスの券売機には
どちらにも3〜4人が並んでいた。
私もそこに並ぼうとすると
「和歌ちゃん、チケット買ってあるから」
桜太が2枚のチケットをひらひらさせる。
「用意周到じゃない」
「へへっ、駅の横のコンビニで買っておいたんだ」
そう言いながら、私に1枚渡してくれる。
「ありがと、えっと・・・」
私、目で入場料を確認しつつ
財布を出そうとカバンをまさぐる。
「いいよ」
「え?」
「通りかかっただけなのに無理矢理連れてきちゃったし、オレが出すから」
「え・・・でも・・・・・・」
思いがけない申し出に少し戸惑うような気分になる。
「いーの、いーの!それより、早く行こ!」
桜太はとてもうれしそうに
さっき電車に乗った時みたいに
私の手を引いて
エントランスに向かっていた。
水族館のエントランスを抜けると
まず出迎えてくれるのはチューブ型の水槽。
いろんなカラフルな魚が泳いでて
一気に海の中の世界へ誘ってくれる。
テーマ別の水槽
熱帯ゾーンだとか深海ゾーンだとかを進んで行くと
水族館の目玉
イルカやアシカのショーがあったり
ペンギンプールやラッコの水槽、クラゲも人気だよね。
イチバン最後に
この水族館自慢の超大型水槽。
円柱型でそれに沿って
通路がらせん状の緩やかなスロープになってて
上の方から徐々に下の方へ行くようになってる。
その途中に
私のイチバン好きな魚を見ることができる。
「わっ!膨らんでる!!」
私、興奮してしまう。
「なに?」
桜太も私が見てる方向を覗き込む。
「あれ、ハリセンボン!」
大きく膨らんでとげとげがビンビンになってるけど
ヒレをパタパタさせてて、すごくかわいい!
「ホントだ!膨らんでるの初めて見る!」
「かわいい!!」
自然とカメラを構えてシャッターを切る。
しばらく写真撮るのに夢中になってたけど
ふと、視線を感じて桜太を振り返る。
「なに?」
「かわいいなぁと思って」
桜太がこないだみたいな優しい表情になる。
「うん、かわいいよね〜」
そう答えるとまたシャッターを切り始めたけど
「和歌ちゃんが、だよ」
思わず、勢いよく桜太を見てしまった。
「和歌ちゃんっていつもオトナでカッコいいイメージだけど、意外な一面見ちゃったな」
うれしそうな顔をする桜太。
「・・・なーに言ってんだか!」
私、テレ隠しをするようにまた撮影に戻る。
「今日の格好も・・・いつもと違う雰囲気ですごくかわいい」
私の反応に関係なく
桜太はガンガンにぶっこんでくる。
もう、お腹がむずがゆくて仕方ない!
「桜太、背、伸びてない?」
どうしようもなくて
無理から話題を変えようと
電車乗ってたときに感じたことを
いかにも“今、気付きました!”的に言ってみる。
電車の中で今までと見上げる角度が少し違うように感じてたんだ。
「あ、わかった?ここ1ヶ月で2センチくらい伸びたんだ」
桜太はクリッとした大きな目を
ますます大きく見開いて明るい表情になる。
「2センチ!?」
「うん、過去最大の伸び幅。今がイチバンの成長期かなぁ?」
そうなんだ。
まだまだ伸びてるんだ。
そしたら・・・
「和歌ちゃんの募集要項@、クリアできそうだよね」
私が今、まさに思ってたことを桜太が口にするから
慌てそうになるのを必死で押さえる。
「全部クリアできなきゃ無理だからね」
そう言い放って
また水槽に視線を戻す。
「キビシイなぁ〜・・・Cだけはどう頑張っても無理なんだけど・・・・・・」
桜太が苦笑いしながら言った。
「そーゆーこと!」
募集要項C、年上!最悪、同い年!
「和歌ちゃん、聞かれたくないことだとは思うんだけど・・・どうして年下イヤなの?」
その桜太のひとことに黙りこんでしまう。
人には確かにあんまり話したくはない。
あまりにくだらないことだから・・・。
「ごめん!今の、聞かなかったことでいいから!」
黙ってしまった私に若干焦って発言の取り消しをする。
「だったら聞くな!」
私の繰り出したこぶしが桜太のみぞおちにヒットした。
「ぐえっ!」
桜太からカエルが踏まれたときみたいな声が出た。
 
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