土曜日。
朝起きた時から
雨がしとしと降っていた。

朝ご飯を食べて
一息ついたところで
時計を見ると10時過ぎ。

「出掛けるかな」

ライトイエローのパーカーに
サックスブルーのフレアスカート。
足元はコンバース風のハイカットスニーカー。
普段はコンタクトな私だけど
今日は黒ぶちのメガネにして
肩甲骨の下まである髪はシュシュでひとつにまとめる。
そして
首からは愛用のカメラ。

「いってきまーす」

こないだ買ったばかりのライトブルーの傘をさして
撮影散歩に出発☆

今日はもともと
撮影散歩する予定だったんだ。
うん、そう。

雨って私は結構好きなんだ。
どしゃぶりだと困っちゃうけど
こんなしとしと雨の撮影は
いつもの景色に
もやがかかった感じになって
それはそれでいいんだよね。

今の時期はキンモクセイのいい香りが
あっちこっちからしてくる。
香りは写真に撮れないのが残念だな。

周りをゆっくり見て撮影しながら歩いてると
時間なんてすぐに経っちゃう。
ふと腕の時計を見るともう11時半近かった。

ここからなら・・・ 駅まですぐだから
駅の近くのお店でランチでもしようかな。
そう思って駅に歩を進める。

駅近くのよく行くカフェに入って
日替わりランチを注文する。
このお店からは駅の改札口がよく見える。
そんなに大きくないこの駅の改札口はひとつ。
その改札口の脇の柱の前に
Tシャツに黒のチノパンで
ストライプの7分袖リブシャツを羽織ってる
毎日のように顔を見る男の子が
しゃがんでスマホをいじってる。

店内の時計に目をやると11時35分。

ほどなく注文したランチが運ばれてきて
さっと食事を済ませてお店を出る。



まだそんなに寒くはない時期だけど
雨のおかげで今日は若干、ひんやりしてるな。
そんなことを感じながら
駅にやってきた。


「肩とか肘とか冷やしたりしたらどうすんのよ?」

私のその声に
しゃがんでスマホをいじってる男の子が顔を上げる。
コイツがこうしてるのが気になって
ゆっくりランチもできなかった。
でも、別にデートの誘いに応じて来たわけじゃない。

「和歌ちゃん、やっぱりオレのこと心配してくれるんだね」
立ち上がって
パンツの後ろポケットにスマホをしまいながら
いつもの満面の笑みでそう言って
私の右手首を掴んで
「じゃ、行こ!」
改札を通ろうとする。

「ちょっと!私はたまたま通りかかっただけで・・・」
なんて言っても
もちろん、桜太は聞いてるわけない。
改札に私の分の切符も突っ込んで
そのまま改札を抜ける。
ちょうど電車が来てるみたいで
私の手を引っ張って電車に駆け込んだ。

「ふー、間に合ったぁ〜!」
桜太がそう言うのと同時くらいに
扉が閉まって電車が動き出す。
私は手を振り払って
「私、通りかかっただけなんだけど」
桜太をじろりと見上げる。
「そうだったの?でも、もう電車乗っちゃったし、せっかくだから付き合ってよ!」
桜太は変わらず、ニコニコ笑顔だ。

屈託のない桜太の笑顔を前に
「はぁ〜・・・」
ひとつため息をつく。

「どこいくの?」
私は抵抗するのを諦めて
今日だけ
桜太に付き合うことにした。
私の問いに桜太の顔が一層明るくなって
「ホントは遊園地とか行きたかったんだけど、今日雨だからね。屋内がいいかな?って思って水族館にした」
うれしそうに答える。

水族館か。
実は結構好きなんだよね。
撮影もできるし・・・いいか。


きのう、桜太は“10時に駅前”って言った。
でも、私が駅前に現れたのはもう12時回ってた。
2時間以上も遅れたのに桜太はなにも言わない。
きっと・・・
ずっとあそこにいたんだよね?

水族館の最寄駅まで5駅。
最寄駅からは歩いて10分ちょっと。
しとしと降っていた雨は
もう止んでいた。
桜太はずっとニコニコのまま
他愛のない話しかしなかった。