ようやく人の波が途切れ始めた。

「おつかれさま〜」
帆風くんと一緒に文化祭委員をしている清水さんがお茶を持って来てくれた。
「ありがとう」
私、人見知り激しい方だけど、戦場を経てだいぶ打ち解けたみたい。

「畑野さんって料理上手なんだね。お客さんに大好評だったし、みんなもすごくおいしいって言ってたよ!」
「ホント?よかったぁ〜」
それを聞いて胸をなで下ろす。
帆風くんの推薦なのに、失敗できないもんね。

清水さんがひとくちお茶を飲んで口を開く。
「・・・畑野さんって・・・」
「なに?」
「帆風くんの彼女?」

ぶほっ!

思わずお茶を噴出しそうになる。

「まさかっ!」
私、めちゃくちゃ慌てちゃう。

「帆風くんってモテるけど、硬派って言うのかな?あんまり自分から女の子に話しかけたりしないタイプなんだよね。でも、畑野さんには一目置いてるって言うか、他の子に対する時と少し違う感じがした」

そ・・・んな風に見えるんだ・・・。
ホントにそうなら、どれだけ嬉しいか!
そうだ・・・思い切ってあのウワサのことを聞いてみようかな・・・。

「でも・・・藤森さんと付き合ってるって聞いたよ・・・」
「え?帆風くんが言ったの?」
「友達が言ってたの・・・抱き合ってるの見た人がいるって」
「えぇ?なにそれ?そんな話、初めて聞いた」
清水さんが苦笑いする。
「私、ここんとこ、帆風くんと一緒にいること多かったから、彼女に絡まれてるところも何度か見かけたけど、私が見る限り、帆風くんは彼女のことなんとも思ってないと思うよ」
そうなんだ・・・。
なんだか少しだけ安心する・・・。
もしかしたら、あのウワサには事情があるのかも!

「畑野さん、帆風くんのこと・・・」
と清水さんが言いかけたところで
「オーダー!チキン2!」
注文が入った。
「ハイ!」
2人してシャキッと立ち上がる。


数十分後
ついに、材料が尽きて売り切れ御免になった。
「おつかれ〜!」
「畑野さん、ホントに助かったよー!」
「ごめんね。せっかく文化祭楽しみに来てくれたのにー」
みんなが口々にねぎらってくれる。
「いえ・・・お料理好きだから・・・役に立ててよかったです」
とは言ったものの
さすがに腕がパンパンだった。
しばらく、フライパン振れないかも。
なんて考えながら、左腕をさすっていると
さっき帆風くんに掴まれた左手が目に入ってハッとして時計を見た。
もう2時!

「あの、体育館ってどこ!?」
勢いよく清水さんの方を振り返ると
清水さんは少し驚いた表情を見せたけど
「あっ、バスケの試合?連れてったげるよ!」
すぐに察知してそう言ってくれた。


清水さんに誘導されて体育館までやって来た。
よかった・・・まだ試合やってる。
観客がすごいたくさんいるなぁ。
全国大会に出るような学校って言ってたもんね。
私たちはなんとかコート脇を陣取ることができた。

あっ!
コートの中を見ると・・・
帆風くんが出てる!
スコアは・・・87-89で負けてて・・・
残りタイムは・・・20秒を切ってるけど
帆風くんがボールをキープした!
センターラインから少し入ったところ
ゴールまでは10m近くある。

残り5秒!

一か八か、ワンハンドでゴールを狙う。
バックボードに

バンッ!

ボールが当たって・・・

入って!!

心の中で強く念じると

ポソッ・・・

通じたのか
バスケットの中をすり抜けて

タンッ!

フローリングの床で跳ねた――

と同時に

ピピーッ!

試合終了のホイッスルが体育館に響いた。