いよいよ、富高の文化祭の日がやって来た。
久しぶりに帆風くんに会える嬉しさと
ついにこの気持ちを伝えるんだと言う緊張とで
きのうの夜はあまり眠れなかった。

「帆風、何組だって?」
なっちゃんがプログラムに目を落としながら聞く。
「5組って言ってたよ・・・」
初めて電車で会った時に言ってたもんね。
「喫茶かぁ、ふーん」
「とりあえず、帆風んとっから行こうか」

校舎内を歩きながら
私はもうドキドキしっぱなし!
私には初めて見る風景だけど、帆風くんには日常なんだ。
あの廊下もこの階段も毎日通って・・・
あ、あの5個並んでる水道も毎日使うんだよね。
どれ、使うのかな?

「まどか!なにやってんの?」
私が蛇口に見惚れていると、なっちゃんに呼ばれてビックリした。
「ごめん、なんでもない!」
ヤバイ、私、ストーカーみたいだ・・・。
そう思ってひとりで苦笑いする。


「うっわ〜!すごい人!」
帆風くんの教室は2階にあった。
すでにものすごい長蛇の列ができていた。
おそろいのTシャツを着た人たちが人員整理をしている。
その人員整理をしている人の中に帆風くんの姿を見つけて
ドキン!
胸が高鳴る・・・。

「あ、帆風いるじゃん!帆風〜!」
私がどれだけドキドキしてるかも知らずに
あやちゃんが帆風くんを呼んだ。
帆風くんも気付いてこっちにやって来る。
ど、どうしよう!!

「畑野!ちょうどよかった!」
へ?
「ぶしつけで悪いんだけど、ちょっと手伝ってくれないかな?」
え?
「調理係、今日ひとり休んじゃってて・・・さらにさっき火傷したヤツが居て全然人手が足らないんだ」
「でも、私・・・いいのかな?」
「いいじゃん!手伝ってやんなよ!貸しは作っとくもんだよ!」
そう言ったあやちゃんが片目を閉じた。
「あやちゃん!」
「今はとにかく回さなきゃいけないんだ。頼む!」
帆風くんが頭を下げる。
「や・・・そんな、頭下げないで!」
「じゃ、やってくれるんだな!」
そう言うと私の左手を掴んで
「助っ人、確保〜!」
厨房の方へ引っ張って行く。
左手から帆風くんの体温が伝わって
顔が真っ赤になる。

「え?誰?」
厨房の中の人が不審がる。
「中学ん時の友達!腕は確かだから!エプロン、余ってたよな?」
帆風くんがそう言うとエプロンが出てきた。

「これメニューだけど、畑野にはピラフやってほしいんだ。できそ?」
メニューを見ると パスタ2種とピラフ2種
ピラフはえびとチキンか・・・。
文化祭だけど、結構ちゃんとしてるんだな。
「うん、大丈夫。でも、こんなメインの仕事、ホントに私がやっていいのかな?」
「畑野がやってくれたら、間違いなくうまいじゃん」
帆風くんが私の耳元でそう言って微笑む。
ドキン・・・!
一瞬、くらっとしちゃう。
帆風くん・・・それ、反則・・・。
でも、私のこと、頼ってくれてるんだ・・・。
お料理得意でよかった・・・。

「これ一応レシピだけど、畑野のやりやすいようにやってもらっていいから」
「わかった」
もう、私も腹をくくる。
それからはもう戦場状態だった。
気持ちを伝えに来たことも
帆風くんが藤森さんと付き合ってるかもしれないことも
全部忘れて、ひたすらフライパンを振った。
しばらくすると、帆風くんは試合のため体育館に向かった。