車の通りの多い道路沿いにある電話ボックスの中から
特に見るでもないけど、行き交う車を眺める。
なんとなく、今度は歩道側へ視線を移す。
たくさん人が通ってる歩道。
たまたま通りかかった50代くらいのおじさんと目が合って
ぎょっとした顔をして
そのまま通り過ぎて行った。

そうや、私の顔、涙でぐちゃぐちゃや・・・。

そう思ったのと同時に
さっき、自分の言った言葉が
アタマの中でリピートされる。

――け ん じ さ ん に あ い た い

・・・っうわぁ!!
私、なにゆうてるん!!?

一気に我に返って
心臓の音が再生され
ドキドキやったのがバクバクになった。
電話ボックスの中でひとり
真っ赤になってパニックに陥る。
変な汗がガンガン出てくる。
受話器を握る手も
汗ばむどころの話じゃない!

いやっ!
どうしたらいいん!!?

受話器の向こうで
謙司さんも驚いてるのがひしひしと伝わる。
絶句してるのがなによりの証拠や!

アカーーン!
もうムリーーーッッ!!

ガチャンッ☆

たまらんようになって
ガチャ切りよろしく
受話器を電話に戻してしまった。
10円玉が2枚ほど
チャリン、チャリン☆
戻ってくる音がした。


うわ〜ん!!
最低やーーーっっ!!
いきなり電話・・・しかも時間的にガッツリ仕事中!
泣いてなんもしゃべれんかと思ったら
告白まがいのことゆうて
挙句、ガチャ切り!!
いた電と変わらんやん!!

謙司さん、どない思たやろ!?
こないだ、いい感じに終われたと思ってたのに
わざわざフタこじ開けて
最後の最後に最悪な印象植え付けてしもたぁぁぁ!!!
もっかい電話して
『なんつっちゃって☆』
とか言ってみる?
いやいやいや、絶対ムリ!!
私にはムリッッ!!

だって・・・
さっきのが
ホンマの本音
やねんもん・・・・・・。


私はそのまま
自己嫌悪に陥りまくり・・・
電話ボックスの中でうずくまって
しばらく動けんかった。
もう、井戸の底でお経を読みたい気分や・・・。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


ガチャーン!

「すいません!!」

どうにかぐちゃぐちゃの顔を整えて
バイトに戻ったけど
休憩中のショックが大きすぎて
全然集中できず、グラスを割ってしまった。

「透子ちゃん、どないしたん?さっきから3個目やで・・・」
いつも優しいマスターもさすがに呆れ顔・・・。

「すいません・・・」
「今日はもういいから、上がり」
時間は5時、まだ1時間ある!
「大丈夫です!」
「アカン」
マスターが首を横に振って
「調子悪い日もあるわな」
私のアタマをぽんってする。
「今日はイブやし、デートのことでアタマいっぱいか?」
ちょっとちゃかすように言われたそのセリフに
合コンのことを思い出した。
アカンわ・・・
合コンなんて行けるような気分じゃない・・・・・・。

マスターに何度も謝って
言葉に甘えて上がらせてもらうことにした。
とりあえず、まきちゃんに連絡を入れる。
合コン、行けんようになったって・・・。
まきちゃんは私の異変に気付いたんか
「分かった」
とだけ言ってなにも聞かんかった。
今度、ちゃんと説明しやなアカンな・・・。


夕方5時半過ぎ。
空はもう真っ暗で
クリスマス仕様の街は
待ってましたとばかりにキラキラ輝きだす。

「今夜が本番みたいなもんやもんなぁ・・・」

大好きなはずのクリスマスに浮かれた街の様子が
今はちょっとくすんで見える。
街の様子とは段違いに荒んだ私の心に
この冷たい風は

ぶるっ!

かなり染みて・・・
マフラーをキツく結び直す。

すれ違う人たちはみんな、幸せそうに笑ってて
私ひとりでこの世の不幸を背負ってる気分にすらなる・・・
きっと、世界の不幸から考えたら
こんなことくらい、不幸のうちに入らんねんやろうな。
けど、私にとっては最高の不幸や!
ん?この場合、最高はおかしいんかな?
最低の不幸?
もうそんなん、どっちでもええわ!

今から、どうしよう?
こんな重い気持ち・・・
家に持って帰りたくない・・・・・・。

『イヤなことがあった時によく来てたんだ』
謙司さんの言葉を思い出して
あの見晴らし台に行きたくなったけど
行くまでの昼間でも薄暗かったあの道を思い出すと
もうすっかり日の暮れてしまった今の時間には
ちょっと行く勇気がない。
今さらながら ムリにでも合コンに行けばよかったと少し後悔する・・・。

仕方なくとぼとぼと駅へ向かいながら
結局、なにも思いつかず
「家に帰って早よ寝たろ」
という結論に達する。


駅前は街中以上に人がごった返してて
なんや、お祭かと思うような雰囲気。
人波を避けるため、改札前の植え込みの方へ寄って
定期を出そうとカバンの中をあさる。
その植え込み沿いには
彼氏彼女と待ち合わせしてるんやろな。
って感じの人たちがたくさん並んでて
また心に風が吹く・・・。

「はぁ・・・・・・」

ひとつ、大きなため息をついた時

「透子!」

遠くの方から
誰かに呼ばれた気がした。