最悪や!
最悪や!
最悪やーー!!
自分に一瞬のスキができてしまったことが悔しい!!!

走りながら手の甲やコートの袖口で
ごしごし
くちびるを拭う。

「いたっ・・・」

擦りすぎて
くちびるがヒリヒリし始めた・・・。

聡と初めてキスした時は
夜、寝れんくらいうれしかったのに・・・
今はこんなに・・・
気持ち悪いーーーっっ!!
よく聞く言い回しやけど
ホンマ、犬に噛まれたとでも思わんとやってられへんわーーー!!!

怒りと悲しみと悔しさ、怖さそして気持ち悪さの混じった
なんとも言えん感情が私の中で渦巻く。
そんな感情を抱えながら走ってても
思い浮かぶのは

あの人の声
あの人の笑顔――

私はしっかり目的を持って走ってた。
確か、あそこにあったはず。
中華商店街の鮒川通り沿いの入口のところ。
最近では探すのがめっきり困難になった
電話ボックス――

海側からまっすぐ駅へ
さらに高架をくぐって山側に伸びるこの通りは
いつでも人が多い。
今日はイブやから余計に多いみたい。

ぶつかりそうになりながら人波を縫って
走りに走って息が切れて立ち止まると
まだそこにあった電話ボックスが目に入った。

知らん携帯番号やったら出てくれへんかもしれんけど
“公衆電話”
なら出てくれるかもしれん。
精神状態最悪やのに
走りながらも
意外と冷静にそんなことを考えられてた結果
ここの電話ボックスのことを思い出した。

息を整えて
ひとつ、深呼吸
電話ボックスに駆け込む。
騒がしい外界から遮断される。
受話器を上げて
10円玉を5枚くらい一気に突っ込んで

そして
あのお守り代わりの名刺に書かれた携帯の番号を
ゆっくりダイヤルする。

指先から・・・
あの人に繋がって行く・・・・・・。

プルルルルル・・・プルルルルル・・・・・・

電話の呼び出し音がやけに長く感じる。
一気にドキドキし始めて
もう 心臓が
破れそう・・・・・・。

呼び出し音がふっと途絶えて・・・

『はい、水原です』

あの声を聞いた瞬間
心臓の音が止まり
私の中で渦巻いてた感情が
涙に溶けて滝のように
頬を伝った。

涙にむせび、声が出せない・・・。
泣いてること・・・気付かれたくない・・・・・・。

『もしもし?』

黙ってたら、電話切られてしまう。
そう思っても、やっぱり声が出せない。
自分からかけたくせに
なにを言えばいいのかも分からん・・・。

ますます涙が溢れてきて
必死に口元を手で覆ったけど

「・・・ぅっく・・・・・・」

かすかに嗚咽が漏れてしまった。

すると・・・

『透子?』

受話器の向こうから
心地いいあの声が 私の名前を言った。

な・・・んで?
なんで私やって分かるん・・・?

『・・・泣いてるのか?』

謙司さんの優しい声に心が揺さぶられて・・・
アカン!
気持ち、抑えられへん!!

「・・・あ・・・いたい・・・けんじ・・・さんに・・・会いたい・・・・・・!」