声がしたと思った方を振り返っても人通りの多い駅前。
人がごった返しててどの人に呼ばれたんか
すぐには判別できひん。

でも数秒、目を凝らしてると
雑踏の中から
私の方に走って来る
スーツにネクタイ、黒いトレンチコートの
見知った人の姿を確認できた。

・・・うっそぉっ!!
なんでっ!?
なんでこんなとこにおるん!??

その人はもう会うことないと思ってたあの人・・・
謙司さん!
さっきの電話でのことが思い出される。

アカン!ムリや!!
会わせる顔がない!!!

そう思った瞬間
きびすを返して走り出す。

「透子!!」

私を呼ぶ声が聞こえたけど、止まれるわけない!

クリスマス仕様の街の中
たくさんの人でにぎわってる街の中
とにかく、走って走って走って走る私を
謙司さんは確実に追ってくる。

はぁ はぁ・・・
疲れへんのかなぁ?
私、そろそろ足がもつれてコケそうや・・・。
今日はなんか走ってばっかやな・・・・・・。


駅前からだいぶ走って来て
気付いたら人通りがぱったり途絶えてた。
市役所のそばにある広場で
ついに謙司さんに捕まる。

はぁ はぁ はぁ・・・

2人ともめちゃくちゃ息が乱れてるけど
謙司さんは私の手首をしっかり掴んでる。
広場には私たちの息遣いだけが響く・・・。

「もう・・・逃げませんから・・・離して下さい」

少し息が整ってきて
謙司さんに背を向けたまま・・・
そう言ったけど
謙司さんはさらに
ぎゅっ
私の手首を掴む手に力を入れた。

「こっち向けよ」

今までと全然違う雰囲気で言われて
ドキンッ!
心臓が高く跳ねる。

私、素直に振り返る。
謙司さんが手を離す。

「なんでこんなとこにいてはるんですか?」

ここは照明が少なくて比較的暗い。
よかった・・・。
あんまり表情見えんから、落ち着いて話せる。

「気になってる女の子が泣きながら電話かけてきてるのに、ほっとけるわけないだろ!?」

落ち着いてる私と対照的に少し険しさを含んだ口調の謙司さん。
その口調とセリフは
“出張先で出会った女の子”
に対するものではなく
“気持ちを通い合わせたい相手”
に対するそれなんちゃうかと
いやがおうにも期待してしまって・・・
胸がドキドキし始める・・・・・・。

だんだん目が慣れて、謙司さんの表情が分かるようになってきた。
すごく心配した。って顔してる・・・。
謙司さんをこんな表情にしてんのは
私、なんやな・・・?

常に落ち着いてた謙司さんが
すごい息切らせて、追いかけてきてくれて・・・
しかも・・・

「それで普通、新幹線で3時間もかけて来る?」

胸はこんなにドキドキしてるのに
うれしさも手伝って
思わずクスッと笑ってしまった。

「オレは来るんだよ!」


周りは静かで・・・駅の方の繁華街から
にぎやかな音が遠くに聞こえる。

あっ・・・『そりすべり』かかってる・・・。
逃げるのに夢中で全然気付いてなかったわ。

「透子・・・」

謙司さんが私の名前をささやくように発する。

そう言えば・・・
いつから呼び捨てになってたっけ?

さっきとは違う優しい表情の謙司さんと目が合って
トクン・・・
心臓が小さく音を立てる。

名前の呼び方なんて
そんなこと、どうでもいいか・・・。

そう思ってたら・・・・・・

パッ!!

暗がりで色のなかった謙司さんに
突然、色がついた。

なにっ!?

私も謙司さんもびっくりして辺りを見回す。
私たちの周りぐるり、360度
まぶしいほどの光の洪水・・・。
青、赤、黄、オレンジ、ピンク、緑、紫、白・・・
幾何学模様に配列された
いろんな色の無数の小さな光のひとつひとつが
私たちを照らしてる。
光の宮殿の中にでもおるみたい――

またしばらく
2人で言葉を失って見とれてしまう。


ゆっくりと流れる優しい時間が私たちを包む・・・。

「オレたち・・・」

低音ボイスが
私の耳に心地よく響いて


「ここからはじめてみませんか?」


謙司さんの整った正しい笑顔・・・。

その笑顔に
また
トクン・・・
胸が鳴って

とびきりの笑顔で
謙司さんの胸に飛び込む――

降り注ぐ光が
まるで
私たちを祝福してくれているかのよう・・・。


ブレスフルクリスマス
―至福のクリスマス―

サンタクロースが恋をした――



                                     Fin.