まきちゃんはあんまり納得してる様子じゃなかったけど
私がその気になったんならって
合コンのセッティングを引き受けてくれた。
そうとなれば
まきちゃんのフットワークはめちゃくちゃ軽くて
すぐに私の合コンデビューの日が決まった。
来週の24日、クリスマスイブやって。
そんな日に合コン来るなんて
ガツガツしてそうやなぁ・・・。
とか思ったことは、黙っとこ。


あの日以降
何事もなかったかのように生活してるつもりやけど
バイト中、出入口の扉が開くたびに
反応して振り返ってしまう。
封印しようとしてる気持ちとはうらはらに
心のどこかで謙司さん違うかって
期待してる自分がおることを思い知らされる。
マスターには
『誰か待ってんのか?』
ってツッコミ入れられる始末。

アカンなぁ・・・
思い出にするって決めたのに・・・・・・。


そんなこんなで、1週間後
24日
クリスマスイブは
あっという間にやって来た――


今日のバイトは朝からで6時上がり。
それから、まきちゃんと待ち合わせ。
なんか・・・
朝からそわそわしてしもて落ち着かんわ。

ランチの時間もひと段落して
ちょっと遅めの休憩に入った。
お昼はお店で済ませて
クリスマス気分を味わいたくて
街を散歩する。
クリスマスに浮かれた街の雰囲気が大好きやねん。
今の時期だけ街中に流れるクリスマスソング。
店先に置かれたクリスマスツリー。
ショーウィンドウに“Merry Christmas”のペイント。
お店の扉に吊るされてる真ん中の雪だるまがかわいいリース。
ケーキ屋さんには行列できてる。
どこのお店もクリスマス仕様でウキウキする!
でも、ウチのお店ほどクリスマス仕様のお店はないけどな!


そんな風にいろいろ見て回ってると
携帯に電話が入った。
ディスプレイの着信表示は番号のみ。
アドレス帳に登録してない人やけど
誰からの電話かはすぐに分かった。
以前は
毎日毎日
このディスプレイに表示されてた番号やから・・・。
一瞬、迷ったけど
電話に出てみる。

「はい」
『あ・・・オレ・・・聡やけど』
思った通り。

「なに?」
『今、オマエがおるのんと逆側の歩道におんねん』
そう言われて、車道の向こう側の歩道を見ると
聡が軽く右手を上げてる。

『今からちょっと・・・話されへんかな?』


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


私が了解すると
聡はちょっと離れたところにある横断歩道を渡って
走ってこっちへ来た。
私たちは近くの公園に移動する。
謙司さんと出会う前の私やったら
絶対会えんかったな。

「こうやって話すの、久しぶりやな」
「そうやな・・・」
数ヶ月前まで
大好きやった聡の笑顔・・・。
今は不思議なくらいなんの感情も湧かない。
嫌悪感すら、ない。
大丈夫、ちゃんと吹っ切れた。

「どないしたん?こんな日にひとりなんて・・・いっつも絵梨と一緒やのに」
私がそう言うと
聡が真面目な顔で私に向き合う。
聡のこんな真面目な顔見たのは・・・
そう、1年前 コクってくれた時だけや。
『好きな子できた』
って言われた時は
私の顔、全然見やんかったしな・・・。

「オマエ、こないだのヤツと付き合ってんのか?」
当然、謙司さんのことやんな。
「アンタには関係ないやん」
「そうか・・・」
「一体なんなん?」
私、ちょっとイラッとしてくる。

「オレ・・・絵梨と別れてきてん」
突然、思いもしないことを聞かされて
さすがに驚いた。
「こんな日にフラれたん?かわいそうやなぁ〜」
ちゃかすつもりやったのに
「違う!」
聡の強めの語気とちょっと険しい表情に
思わずビクッ!としてしまう。

「オレが別れてくれゆうたんや」
「なんでよ?」
「やっぱり・・・オマエが好きなんやって気付いたから・・・・・・」
「はぁっ!?なに寝言ゆうてんねん!」
「寝言とちゃう!!絵梨と別れて、オマエのこと考えながら歩いてたら、オマエがおって・・・すぐに伝えなアカンと思た」
「ホ・・・ンマに?」
「わざわざウソなんか言いに来るか!あの時は悪かった!もう1回、オレと付き合ってくれ!」
コクってくれた時と同じ・・・
少し顔を赤らめて聡が言った。

「・・・うれしい!」
私もあの時と同じ
満面の笑みを見せる。

「透子・・・」
聡のホッとした笑顔を確認して・・・

「なんて・・・言うと思った?」

今度は一転、冷ややかな血が通っていないかのような表情で
そう言うと、聡が固まった。

「アンタ、私になにしたか忘れたん!?ようそんなことが言えるな!!人のもんになったと思ったら惜しくなった!?」

3ヶ月かかって、やっとさっぱり吹っ切れたのに
なんでまた今さらぶり返すんよ!
人の気持ちをなんやと思ってんねん!!

「アンタなんかにホレてたなんて、私の人生最大の汚点やわ!!」

さすがに言いすぎかと思ったけど
それくらいのことをされたし
利子だってついてんねん!
そう自分に言い聞かせる。

聡は返す言葉がないのか
呆然とした感じでただ黙り込んでる。

「用件ってそんだけ?ほな、私行くわ」

言うだけ言ってスッキリした私が
聡の脇をすり抜けて行こうとすると

「待てや」

腕を掴まれて引き止められる。

「なによ?まだなんかあんのん?」
「好きやゆうてるやん」

見たことない真剣な瞳で私をまっすぐに見る聡。

不覚にも
ドキッ!
としてしまった。

「イヤや・・・離して・・・・・・」

目を逸らしてさっきより弱気になってしまう私。

聡は私のひるんだスキを見逃さず
そのまま腕を引っ張って
強引に くちびるを
奪うように・・・

「・・・っん!」

キスをした・・・。

のけぞって離れようとする私の背中に腕を回して
ガッチリ抱きしめられ、身体の自由も奪われる。

「んーーーっっ!!」

男の子の力になんかかなうわけなくて
もがいても簡単には離してくれない。

イヤやーーーっ!!

ガリッ!

「いっ・・・!」

私、聡のくちびるに思いっきり歯を立てて
聡の拘束がゆるんだスキに
ドンッ!
力いっぱい突き飛ばして、キッと睨み付ける。

「あほんだらーーっっ!!アンタなんか死んでまえーーー!!!」

血のにじむ下唇を痛そうに押さえてる聡に
そう怒鳴って
走って公園を出た。