「あたし、アンタの最近の変化に気付いてんで!」

食堂で日替わりランチを食べてたら
まきちゃんが唐突に言った。

「え・・・?」
「なんかあったやろ!」
「なんでそんなん分かるん?」
私がそう言うと
向かいに座ってるまきちゃんが
クイッと私の後ろをあごで示した。

振り返るとそこには聡がおって・・・
こっちを見てたけど
向こうがパッと目を逸らした。

「今までは聡が周りにおったら、アンタが目ざとくすぐに気付いてたのに、最近、逆になってるねん」

あれ以降、聡のことなんか全然気にならんようになった。
完全に吹っ切れたみたい。
私には謙司さんと志穂さんみたいに
聡に“伝えるべきこと”なんてなかったんや。
謙司さんにぶちまけただけでスッキリしたわ。
謙司さんにはめっちゃ感謝してる。

「あたしの目はごまかされへんで!なにがあった!?さぁ、吐きっ!!」

特に隠してるつもりもなかったけど
謙司さんのこと、誰にも言ってなかったし・・・
ちょっともったいない気にもなった。

「あったゆうたらあったけど・・・」
「なによ!もったいぶらんと早よ言いや!」
まきちゃんがテーブル越しにお箸を突き付けてくる。
「はい!言います!!」
私、ぎょっとしてそう言ってた。
まきちゃんやったら、ホンマに刺しかねん・・・。


謙司さんと出会った時のことから
あの日、聡たちと会って惨めな気持ちになったけど
謙司さんが助けてくれたこと。
それから、謙司さんに話せてスッキリしたこと・・・。

「なにそれ!?めっちゃいい感じやん!!」
まきちゃんがすごい興奮してる。
「ほんで、どうしたん!?」
「どうって・・・?」
「好きとか付き合おうとか!!」
「そんなんないよぉ〜」
「ほな、メールは?毎日してんねんやろ?」
「してへんよ、アドレス知らんし」
「んじゃ、電話?」
「電話も知らん」
「はぁ!?なんでよ!!?」
「なんでて・・・」
思わず、苦笑い。

「そんないい人、鐘鳴らして太鼓叩いて探したかって、そう見つからんで!なんで連絡先も聞かんのよぉっ!!?」

なんか・・・まきちゃんがすごい悔しがってるみたい・・・。

そうはゆうてもなぁ・・・。
あっ、連絡先ゆうたら・・・
「名刺はもらったで」
財布にお守りみたいに入れてた謙司さんの名刺をまきちゃんに見せる。

「携帯の番号書いてるやん!」
確かに
謙司さんの会社の電話番号とFAX番号の下に
携帯の番号が書かれてあった。
「あー・・・それ“ビジネス”やわ、仕事用・・・」
「ほんなこと、分かってるわ!仕事のんだっていいやん、アンタ次第で連絡取れるってこと!」

私次第・・・。

「それはないわ」
「なんでアンタはそんな後ろ向きなん?」
まきちゃん、少し呆れ顔。

「後ろ向きとかじゃなくて、お互いにそういう対象じゃないってこと」

私が毅然としてそう言うと
「・・・そんなん言われたら、どうしょうもないやん・・・・・・」
まきちゃんが残念そうに黙った。

ごめん、まきちゃん・・・。
私、ホンマは気付いてる。

日に日に
謙司さんの存在が
私の中で大きくなってること・・・・・・。

あのあと
謙司さんの“ビジネス”携帯が鳴って
横暴な上司に『すぐに帰って来い!』って言われたらしい。
すぐゆうても・・・新幹線で3時間かかるんやけどな。

あの日は・・・もう全部仕事終わって
こっちへ来る最後の日やってんて。
最後にクリスマスツリー見れたし
お気に入りの見晴らし台にも行けたし
私ともいろいろ話せて楽しかったって言ってくれた。
この街でイヤなこともあったかもしれんけど
あんな女の子とお茶したな。とか
時々思い出してくれたらうれしいなぁ・・・なんて思ってる。

そやから、もう会うことはないし・・・
たぶん、この気持ちが謙司さんの言ってた
“次への糧になる!”
やと思うねん。
だから、謙司さんへの気持ちは
これ以上大きくならんうちに封印するって決めた。
なにより、謙司さんみたいな大人の男の人に
子どもの私なんかが適うわけない。
それこそ、対象外もいいとこやろ!

「なぁ!前、まきちゃんゆうてたやん?合コンセッティングしたるって」
「え、あ・・・うん」
「私、行ってみようかなぁ?」