「今度はオレから聞いてもいい?」

見晴らし台からの眺めにしばらく見とれてると
謙司さんが口を開いた。

「なんですか?」
私は謙司さんの方を振り返る。

「さっき会った彼・・・元カレだよね?」

ドクンッ!

大きく心臓が揺れる。

「・・・・・・」
私、なんも言えんで黙ってしまう。

「傷えぐるようなこと聞いてごめん・・・だけど、さっきの様子見てすごい気になったんだ。ツラそうだったから」
「・・・・・・」
「ごめん・・・オレには関係のない話だよね・・・・・・」
さらに黙る私に
謙司さん、申し訳なさそうに苦笑いした。
そんな謙司さん見て、金縛りが解けたかのように口を動かす。

「水原さんの言う通りです・・・もう3ヶ月経ってるのに全然吹っ切れてないんです・・・」

そう言うと
ずっとずっと
内に秘めて我慢してた気持ちが一気に
涙と一緒に溢れ出す。

「だって!あんなに好きやったのに、勝手に他に好きな子作ってしもて・・・私に気持ちないの分かってるのに引き止めるとかできひん!私、謙司さんみたいに大人じゃないから、そんなキッパリ割り切られへんねん!」

下を向いてぼろぼろ涙をこぼす私のアタマを
謙司さんが優しくなでてくれてる・・・。

「オレだって・・・きれいに割り切れてたわけじゃない」

私、謙司さんの顔をパッと見上げる。
謙司さんは背が高いから
この距離やとホントに“見上げる”って感じになる。

「志穂からの伝言聞いた時は行くつもりなんてなかったんだ。だけど、透子ちゃん、言っただろ?ちゃんと話した方がいいって・・・それが電話切ったあともずっとアタマに残って、ちゃんと言わなきゃいけないことがあるんだって思った」
「言えたんですか?」
「うん、今までありがとう、幸せにって・・・。割り切って付き合ってたつもりだったのに、いざその時が来ると思ってたよりショックだったんだな・・・」
謙司さんが若干愁いの混じった微笑みを見せる・・・。

「それって今でも吹っ切れてないってことですか?」
「いや、伝えなきゃいけないこと伝えられたから・・・うん、透子ちゃんのおかげ」

そう言った謙司さんの笑顔に思わず

ドキッ!

胸が鳴る・・・。

いや・・・
なんか
すごいうれしい・・・・・・。

「この携帯、全然鳴らなかっただろ?」
私がさっき返した携帯を見せて謙司さんが言った。
「はい」
「これにはほとんど志穂からしか連絡来なくなってたから・・・」
それで・・・『必要ないから』やったんか・・・・・・。
「ごめんね、捨ててくれなんて言われて困ったよね」
「はい、困りました・・・」
私が正直に言うと、謙司さんは苦笑いになった。

「でも、この携帯のおかげでもう一度透子ちゃんと会うことができた」
「えっ?」
「お礼、言いたかったんだ。志穂とのこと、スッキリきれいに終われたから・・・」

そ・・・うやんな。
一瞬、なにかを期待してしまった自分が恥ずかしい・・・。
謙司さん、気付いたかな?

「さっき、なんかカッコいいこと言ったのに・・・結局、暴露しちゃって恥ずかしいな」
謙司さんの方がテレてる。
私の反応には気付いて・・・ないかな?

「別に割り切れなくてもいいんじゃないかな?」
テレ隠しなのか
唐突に謙司さんが言った。
「今はツライかもしれないけど・・・割り切れない余りがいい経験になって、きっと次への糧になる!」
「うわっ、めっちゃ前向き・・・」
「お兄さんの経験上の答えだ!ありがたく納めておきなさい」
謙司さん、ふんっと鼻を高くする。
私はクスッと笑って
「はい!」
元気に返事してた。


謙司さんは
荒んでた私の心にプレゼントをくれた
ちょっと早めのサンタさんみたいやな。

あんなにもやもやしてた気持ちが
信じられへんくらい澄み切ってる。
ちょうど
この
泣けそうなくらいきれいな
冬の寒空みたいに・・・。