あのあともいろいろ話してカフェから出たら
私が山側は未開拓で知らんところが多いって言ったからか
「案内したいところがあるから、もうちょっと時間もらっていい?」
って言われた。

謙司さんは仕事の関係で半年ほど
こっちに住んでたおかげで
結構この辺のことに詳しくなったらしい。
だから、さっきのお店にもよく行ってたんやって。
ウチのお店にも何回か来てくれてたみたい。
全然・・・知らんかったわ・・・・・・。
クリスマスツリー前で待ち合わせたのは
ツリーを見てみたかったから・・・って。
思ってたより、ミーハーっぽいな。

カフェを出て、キツイ坂を登って行く。
港町として栄えてきたこの街には
その昔、たくさんの外国の人が入ってきた。
この辺りにはその外国の人が住んでた古いレトロな洋館がたくさん残ってて
一般に公開されてるから観光客が結構多い。
クリスマス前で、魚のうろこみたいなデザインの壁の洋館からは
サンタさんのぬいぐるみが覗いてる。

そんな洋館街の脇の細い道に入って、さらに登って行く。
人がギリギリすれ違える程度のせせこましい坂道は舗装されてるけど
頭上には木が覆いかぶさってて、昼間やのに薄暗い。
洋館街にはあれだけあった人気がまったくなくなった。
ひとりでは・・・昼間でもあんまり来たくないとこやな。
それにしても、結構登ってきたと思うねんけど
謙司さん、どこ行くんやろう?

そう思ってたら
突然、視界が開けた。

「うわぁー・・・きれーい・・・・・・」

ひとりでにそんな言葉が口を突く。
そこは私がいつもうろうろしてる街を一望できる見晴らし台やった。

まず、目に飛び込んでくるのは
向こうの方に見える海。
右手の方にはさっきまでいてたキャッスルガーデン。
そこから左の方へ視線を移していくと
海辺にある小さい遊園地の観覧車。
この街のランドマークである赤いつづみ型のタワー。
数年前、お笑い芸人と女優が超豪華披露宴をしたことで有名なホテル。
もう、離婚してしもたけどな。

さらに左へ目線をスライドして行く。
ウチのカフェの近所にある百貨店。
オフィスビル群。
30階建ての市役所。
その奥には埋め立ててできた人工の島へ繋がる赤い大橋。
手前の方にはさっき見たうろこの壁の洋館の屋根が見えてる。

洋館街の裏手に
こんなとこ、あったんや・・・。
全然、知らんかった・・・・・・。

「ここからの眺め、気に入っててさ、イヤなことがあった時によく来てたんだ」

冷たい風が頬をなでるのがちょっと寒いけど
謙司さんの声はやっぱり耳に心地よかった。