突然、肩を抱かれてビックリして
その人の顔を見る。
こないだ、私がコーヒーひっかけたサラリーマン・・・
ケンジさんや!

チャコールグレーのストライプのスーツに
淡いブルーの千鳥格子柄のネクタイで
黒のトレンチコート羽織ってる。
今は160cmの私の背丈に合わせて少しかがんでる状態やけど
20cmは身長差あると思う。

っていうか・・・
私なんで肩抱かれてるん!?

驚く私をよそにケンジさんはさらに抱き寄せて
私の顔に自分の顔を近付けてこう言った。

「今夜はホテルとってるんだ。来るだろ?」

ホ、ホテルぅ〜!!!?
なにそれ!?なんの話っ!!??
もうアタマの中、ぐるぐるや!!!

でも、パニックに陥りながらも
近くで見るとますますイケメンやぁ〜。
なんて思ってる自分が怖い・・・・・・。

私のものすごい戸惑った様子を察知したケンジさんが
私にしか分からんように片目を閉じて見せた。

あっ・・・!
そういう・・・・・・

「・・・うん!あの夜景のきれいなスイートルーム?」
私がいかにもいつも通り!って感じに言うと
「もちろん!」
ケンジさんが当然!って感じに
また片目を閉じて答えてくれる。

そこで初めて、ケンジさんが聡たちに視線をやった。
「あ・・・悪い、友だち?」
「うん、学校の友だち」

「トウコがいつもお世話になってます」
ケンジさん、2人に丁寧に
にっこり微笑んでそう言った。

聡の表情が凍り付いて・・・
絵梨なんか歯を食いしばるようにして
こめかみの辺りに青筋立ちそうなくらい悔しがってるのが分かる。

うっひゃ〜っ!
気分ええなぁ〜!!
ケンジさん、顔立ち整っててイケメンやし
背も高くてカッコいいもんなー!!
絵梨の大好物とちゃうん?
聡もビジュアルはまぁいい方やけど
ケンジさんと並んだらコールド負けもええとこや!
形勢大逆転!!

「じゃ、行こうか」
ケンジさんは私の肩を抱いてた手で
今度は私の手を
ぎゅっ
握った。

ケンジさんの手が大きくて温かくて
大人の男の人って感じで・・・
思わず、ドキッとしてしまう。

「トウコ?」

ぽーっとしてしまった私の顔を
ケンジさんが不思議そうに覗き込む。

アカン!しっかりしろ!!

「あ・・・うん!ほなな!」
私は聡と絵梨にそう言って
ケンジさんと手を繋いで
キャッスルガーデンをあとにした。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


「あははははは!」

キャッスルガーデンを出て
ケンジさんと2人
お天気はいいけど冷たい風の吹く海辺の公園に来て
私、大笑い!

「あの2人の顔、見ました?傑作でしたよ〜!ざまぁみろ!ゆう感じです!!」
「オレじゃ役不足じゃなかった?」
ケンジさんも笑ってる。

ケンジさんは私が困ってることに気付いて
助け舟出してくれてん。
私も最初は焦ったけどな。
いきなり肩抱かれるとか、ホテル言われたりして・・・。

「役足りすぎてますよ!ケンジさん、イケメンやし・・・!」
あっ・・・!しもた!!
「すいません!他意はありませんから!」
私、赤くなって慌ててそう言うと
「ないんだ?残念だな」
ケンジさんは穏やかに微笑んだ。

え?あった方がええのん?
・・・ちゃうちゃう!
社交辞令?とかなんとか言うヤツやわ!
えっと・・・
とりあえず、お礼言わなな。

「あの、ありがとうございました」
「いや、オレも楽しかったから。携帯も預かってもらってたしね」
あっ・・・せや!
そのセリフで本来の目的を思い出した。

カバンの中からケンジさんの携帯を取り出す。
「携帯、お返しします」
「ありがとう」
「それからこれ・・・」
そう言いながら
色気のない銀行の袋をケンジさんに差し出す。

「こないだはホンマすいませんでした。お代、もらったらアカンのに・・・」
中身はこないだ、ケンジさんが置いて行った千円札。
「そんなの、気にしなくていいのに」
「いえっ!クリーニング代にもならんとは思いますけど・・・」
私が申し訳なさそうにすると
ケンジさんはクスッと笑って
「ありがとう」
受け取ってくれた。

ほな、用事も済んだし、これで解散やな。

と思ったけど
・・・・・・
なんや?
この
なんかちょっと
残念な気持ち・・・。

そんな気持ちになってたら

「これから予定ある?」

ケンジさんに聞かれた。

「6時からバイトですけど・・・」

ケンジさんが腕時計を見る。
今は・・・2時半過ぎってとこかな?

「じゃあ、お茶でもしようよ」

私が渡した銀行の袋をピラッと見せながら
ケンジさんがそう微笑んだ。