捨ててって言われたけど
やっぱり捨てれんで持ってた携帯が振動したのは
2日後やった。

なんでこの携帯が必要ないんかは分からんけど
確かに、その電話がかかって来るまで
うんともすんとも言わんかった。

携帯の画面に
“ビジネス”
って表示されてることを確認して
電話に出る。

『やっぱり返して』
やって。
言うことのころころ変わる人やな・・・。
私が捨ててしまってたら
どないするつもりやったんやろ?

『明日、急遽そっち行くことになったんだ。2時ごろ予定どう?』
明日の授業は午前中だけやったな。
バイトは夕方。
「大丈夫です」
『じゃあ、キャッスルガーデンのクリスマスツリー前ね』
なんで、クリスマスツリー前なん?
と思ったけど
よそから来る人やから分かりやすいのがそこなんかもしれん。
と思い直す。
「分かりました」

翌日
ちょっと早めにキャッスルガーデンのクリスマスツリーのところに着いた。
海に程近い場所にあるここ、キャッスルガーデンは
百貨店と商業施設の間の空間を利用した屋内型の庭園で
ど真ん中を1階から6階までの吹き抜けの通路がぶち抜いてる。
その通路には季節に応じた花なんかが植えられてて
今の時期やったらポインセチアが目立つな。
どこぞの放送局でやってるようなピタゴラスちっくな
おもしろいオブジェがあったりして、いつまで見てても飽きひん。
天井はガラス張りになってて、日中は日の光が差し込む。
いつも私が入る入口から吹き抜けの通路を突っ切って
反対側の出入口まで行くと、その出入口のすぐ手前に
21mのクリスマスツリーが登場する。
大きなリボンが付いててかわいいねん。

「まだ・・・来てないよな?」
こないだちょこっと顔合わせただけやのに分かるんかなぁ?
まぁ、電池は残り少ないけど携帯あるし、大丈夫か。

それにしても
こうしてツリーの前に立ってキョロキョロしてたら
クリスマスも近いせいか
周りは浮かれたカップルだらけなことに改めて気付かされる。
なんか・・・場違いな気がしてきた・・・・・・。

そんなことを考えながら
少し居心地の悪い気分でいると・・・

「透子先輩!」

聞き覚えのある女の子の声に
ギクッ!
っとして、ゆっくり声の方を振り返る。

「透子先輩、ここで待ち合わせですかぁ?」

うわぁぁ〜・・・・・・
絵梨や・・・。
当然、隣には聡がおる。
やっぱり腕とか組んだりして
いかにも『デート中です!』って感じ・・・。
絵梨は嫌味なほどの笑顔で声をかけてきた。
こんなとこで会うなんて
最悪や・・・・・・。

「うん・・・まぁ、そんなとこ・・・・・・」
「あっ、もしかして、デートですかぁ〜?」
絵梨がきゃらきゃら笑ってる。

なにがおかしいん?
なんでそんなこと聞くん?
私が聡にフラれて、そんな相手おらんこと分かってるくせに・・・。
聡かって困ったように黙ってニヤけてんと、なんかゆうたらどうやねん!!
今、私が惨めな思いしてるのん分かるやろ?
いくらホレてるゆうたかって
自分の女が人傷付けるようなこと言ってるのに黙って見てるなんか最低やわ!!

イヤや・・・もうこの場におりたない!!!

そう思っても、逃げるのもイヤで
強く拳を握って耐えてたら・・・

「お待たせ、トウコ」

ふわっと肩を抱かれて
こないだから電話越しに聞いてた
心地いい低音ボイスが
耳元でした。