そんな感じでマスターにスカウトされて
始めたバイトやけど
私はこのお店が大好き。
ここは私にとって聖地やな。

「今日も大盛況やなぁ〜」

ランチの時間は1日でイチバン混む。
4人掛けテーブル4つにカウンター6席の比較的手狭な店内に
ウッドデッキのバルコニーにオープンカフェの4人掛けテーブルが2つ。
オープンカフェは今の時期は寒いけど混んで来ると
外でもいいって言ってくれるお客さんを入れることもある。
一応、ブランケットと足元ヒーター置いて
バルコニーを覆う感じで透明なビニール張ってあるねん。

今はオープンカフェのテーブル2つとも埋まってる。
ひとつは荷物をいっぱい持って買い物して来ました!っていう感じの
50代くらいのおばちゃんと娘さんの母娘と思われる2人組。
もうひとつのテーブルは
20代半ばくらいのスーツの男の人でノートパソコン開いて
キーボード打ちながら電話してる、デキる!って感じのサラリーマン。
結構・・・イケメンやな。

「お待たせしました〜」

2人組の母娘の方のテーブルに日替わりランチを持って行って
立ち去ろうとした時
空いてるイスにいっぱい積んであった荷物が崩れて
落ちそうになったのを支えたら

バシャッ!

私のもう片方の手がサラリーマンのテーブルに乗ってたコーヒーに当たって倒れて
テーブルの上からスラックスやらコートやらにこぼれてしまった!

「すいません!」

私が謝るとマスターが慌ててタオルを持って来てくれた。

立ち上がって服にかかったコーヒーをタオルで拭いているサラリーマンは
そんな状態やのに耳に当てた携帯を肩で挟んで
なおも何事もなかったかのように電話を続けてる。
私もテーブルを拭きながら
社会人て大変なんやなぁ・・・。
なんて思っていると

「はい!すぐ戻りますっ!!」

そう言って電話を切った。
かと思うと、素早くテーブルの上のパソコンを閉じて
黒いいかにもサラリーマン!って感じのビジネスバッグに突っ込んで
これまた黒い長財布からスッと千円札を出して
「お釣り、結構ですから」
と言ってテーブルに置いた。

「あのっ・・・パソコンとか大丈夫ですか?」
私が恐る恐る聞くと
「ああ」
無表情で目も合わせずに素っ気無く返事して
さっさとお店を出て行ってしまった。

う〜・・・絶対怒ってるよなぁ・・・・・・。
お代もホンマはもらうべきじゃないのに・・・。
でも・・・言葉のイントネーションからして
別の地域から出張かなんかで来てる感じやし
もう会うこともないかな?
と思ったのに・・・

あ・・・

テーブルの上に携帯を発見した。

うわっ!これ、あの人の忘れもんやん!

慌ててお店を飛び出したけど
もうさっきの人の姿は見えない。

どうしよう・・・。
携帯なかったら、絶対困るやんな・・・。