忙しい時間やから
私もすぐにお店を出るわけにはいかなくて
どうしよう・・・と思いながらも
その携帯をポケットに入れて
そのまま、仕事を続けた。

それから2時間ほど経って
ひと段落してホッとしてたら
ブブブブブブブブブ・・・・・・・・・
ポケットに入れてた携帯が振動し出した。

あっ!
さっきの人
気付いてどっからかかけて来たんや!!

「もしもし!」

『・・・・・・』

急いで電話に出たけど
電話の向こうの人は
驚いてるのか
なにも言わない。

しもた!
あの人とちゃうかったんや!!

「あのっ・・・!」
『・・・誰?』

女の人の声や!

『謙司さんの・・・新しい彼女・・・?』

うひゃぁ〜!
誤解されるっ!!

「違いますっ!私、忘れて行かれてたこの携帯拾っただけのもんです!!本人さんかと思って慌てて電話に出てしまいました!」
私、テンパって一気にそう言った。

『そう・・・』
柔らかい声の
電話の相手は妙に冷静だ。

「なので!本人さんは今どこにいるのか分かりません!!」
私はなおもテンパって続けた。

『じゃあ、アナタでもいいわ。謙司さんに伝えて』
「はっ!?」

『明日の15時の新幹線で帰るから。さようなら。って』

「はぁっ!??」
さようなら!?

そんなこと、直に言わんとアカンやろ!!
たぶん、この人
携帯忘れてった‘ケンジさん’の恋人なんや!
そんで、この電話は別れの電話なんや!!

「ちょっ・・・待って下さい!そんな・・・」
全部言い切る前に
プツッ・・・ツーツーツー・・・
電話を切られてしまった。

ってゆうか、なんで私が言わなアカンのん!
絶対ムリやし!!
冗談じゃない!!

ケンジさんには悪いと思ったけど
着信履歴を見て
イチバン上にある‘志穂’にリダイヤルする。

プルルルルル・・・プルルルルル・・・・・・

『はい』
あっ、出てくれた!

「私!そんなんよぅ言いません!!」

志穂さんが電話に出るなり
勢い込んでそう言った。

『そう・・・そうよね』
志穂さんは落ち着いた様子でつぶやく。
『いいわ、言うも言わないもアナタ次第だから・・・』
はぁ!?まだ言うか!この女!!

私のアタマに血が上ってるのをよそに
『ねぇ、アナタいくつ?』
なんの意味があるのか
全然関係のない質問をして来る。

「19・・・ですけど」
『謙司さんより6つ下なのね』
あの人、25歳なんか。 とか思ってる場合じゃない!!

「あのっ、とにかくそういうことは本人に・・・」
私がそう言いかけると
『ふふ、謙司さんってばロリコン趣味に走ったのかしら』
志穂さんが軽やかに笑いながら言った。

ぬぁーーにぃぃーー!!
6つ違いゆうても
ハタチと14やったらまだしも
私だってもうちょっとしたらハタチやのに
ロリコンとかゆうかぁ!?
って、そことちゃうやろ!
自分にツッコミを入れる。

この女、完全に私の話全然聞いてへん!!
ケンジさん!
こんな女、別れて正解やで!!!

「ケンジさんには私からゆうときますっ!!!」

そう言って
思いっきり強く電源ボタンを押した。
固定電話でなく
ガチャ切りできなかったことが
残念に思えた。