季節は過ぎて秋。
「なんか落ちたぞ」
休み時間。
私の席でおしゃべりしていた秀樹が
そう言って拾ってくれたのは
進路希望調査票だった。
「美奈、穐東受けんの?」
進路希望調査票には
第2希望まで学校名を書くようになっていて
第1希望の欄に私は
“穐谷東高校”と書いていた。
「うん!今年の地方大会見てたら、なんだか雰囲気すごくよくて!どうせなら、こういうチームでマネジャーやりたいなって」
いつも通り、秀樹は優しい笑顔で聞いてくれる。
「甲子園には行けるか分からないけどね・・・」
私、そう付け加える。
穐谷東高校は
今年の夏、ベスト16まで行った。
県内では強い方だけど
まだ、甲子園には春夏とも
出場したことがない。
「行けるよ」
「え?」
「オレが連れてってやるから」
秀樹がウインクをしながら
用紙をヒラヒラする。
その用紙にも“穐谷東高校”の文字!
それに私は思わず目を見開いて驚いてしまう。
「なんで!?柳沢とか声かけられてたんじゃないの?」
柳沢は全国屈指の強豪校で
甲子園の常連みたいな学校だ。
だから、当然、練習とかもキツいんだけど・・・。
秀樹はそんな強豪校からも声かけられてるくらい
地元ではわりと有名なピッチャーなんだよね。
「うん、でも・・・今年の穐東見てオレも美奈と同じこと思った。どうせやるなら楽しくやりたい。選手集めしてるような強い学校に勝って甲子園に行きたい!」
目標を見据えた秀樹の目が
一瞬、光ったように見えた。
「オレがいるから、大丈夫だって」
少し
ドキッとしてしまった私になんて構うことなく
すぐにいつもの笑顔に戻って
親指立てちゃったりなんかして。
「その自信、どっから来んの〜?」
なんて茶化すように言ってみたけど
秀樹の言葉は信じられる気がした。
「おぅ〜い」
どこからか隆成が現れた。
「オマエひとりがいるくらいで行けるほど、甲子園は甘くねぇんだよ!」
そう言うと
バンッ!
机の上に用紙が置かれた。
「ま、オレがいりゃ別だけどなっ!」
その用紙にも穐谷東高校の文字。
隆成がいつも通り
自信満々のニカッという笑顔でピースする。
「えー?アンタ、成績大丈夫なの〜?」
私がそうツッコむと
「うぬぅっ・・・!」
それだけは言わないでくれ!
と言わんばかりの隆成の耳の痛そうな表情。
なんてね。
ホントは
私
うれしくて仕方ない――
私たち、きっとこれからも
ずっと一緒にいられるよね。
秀樹は2年の時からエース。
よく気が付いて、すごく優しい。
隆成はチームの主軸4番。
明るくて元気なキャプテン。
2人は
私にとって
とても大切な存在です。
Fin.
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