中学生になったばかりの春――

天気がよくて気持ちのいい日曜日の午後。
買い物の帰り
川沿いを自転車で走っていたら
河川敷のグラウンドで野球の試合が行われていた。
スコアボードを見ると
山二中vs松陵中
あ、ウチの学校だ。

自転車を停めて
土手の斜面に座る。
「野球はよく分からないけど、ヒマだし見て行こーっと」

そう
そんな軽い気持ちだった。
だけど
ハツラツとしたプレー。
気合の入ったかけ声。
みんな、ユニフォームを土でドロドロにして
懸命にボールを追いかける。

「カッコいい・・・」

それ以降、私は野球の魅力に取り憑かれ
ナイターを見たりしながら
野球のルールを必死に覚えた。


そうして、いつもの河川敷のグラウンドへ
何度目かの練習試合を見に行った時

「鹿口!」

試合が終わって帰ろうとしているところに
声をかけられた。
声のした方を見ると
ユニフォームを着たなんだか見覚えのある男の子2人が
こちらに向かって歩いて来る・・・。

「あ、同じクラスの・・・・・・誰だっけ?」
同じクラスってことだけは分かったけど
名前が出て来ない。
たぶん、声をかけてくれた方の男の子が
苦笑いをして、ガクッとなっている。

「1年3組5番柏木隆成(かしわぎ りゅうせい)!」
「オレは野村秀樹(のむら ひでき)、よろしくな」
「あ、野村くんは知ってるー」
「なんで秀樹だけなんだよ!」
柏木くんが不服そうな顔をする。
「み、みんながカッコいいって・・・」
「昔からそうなんだよ。みんな、上辺に騙されてんだ」
「なに言ってんだよ・・・」
野村くんが苦笑いになる。

「秀樹!隆成!行くぞ!」
たぶん、先輩にそう言われて
「ハイッ!」
2人とも、体育会系の返事をする。

「やっべ!じゃな!」
「また明日な」
「うん、また明日ね」
私は手を振って2人を見送る。

柏木くんと野村くんかぁ。

なんだかよく分からないけど
私の中にむくむくと
期待のような気持ちが膨らんでいた。


翌朝
げた箱のところで
「おっす!」
後ろから声をかけられた。
柏木くんだ!
「おはよう」
野村くんも一緒だ。
「おはよう!」
3人で教室に向かう。

「2人とも、野球部だったんだねー。私、野球に全然興味なかったんだけど、たまたま練習試合見てたらカッコよくて!ヤミツキっ!」
「そーだろーそーだろー!まぁ、一番カッコいいのはオレだけどなっ!」
柏木くんがそう言ってニカッと笑う。
野村くんは苦笑いしてる。
いつものことなんだろうな・・・。

「柏木くんって自信家なんだね〜」
私がそう言うと
「『隆成』でいいよ。オマエは?鹿口なに子?」
柏木くんがそう聞いて来た。
「美奈だけど・・・」
「ほいじゃ、美奈!改めて、よろしくなっ」

――美奈!

男の子に下の名前呼び捨てされたのなんて
初めてで・・・
くすぐったいけど
なんだかうれしい!

「うん!よろしくねっ」

まだあんまり親しい友達もいなくて
初めていろいろ話した友達。

これが私たちの出会いだった――