「おはよ、和歌ちゃん!」

翌朝。
イチバン通学路が混雑する時間帯。
私もその中を学校に向かっていると
後ろから声をかけられる。
私の隣に並んだその声の主は・・・

「そんな顔しないでよ〜。ほらぁ、スマイル、スマイル!」

きのう
『オレと付き合って下さい!』
と言ってきた桜太。
そのままの笑顔で
私の顔を覗き込む。

「私、断ったよね?」

桜太と目も合わせず
前を向いたまま、歩を進める。
だけど・・・

「って言うか、『和歌ちゃん』って・・・なに?しかもタメ口?」

いきなりこう来られたことには気になって
思わず、桜太に顔を向けてしまった。
やっと目が合った!って感じに
桜太の表情がより明るくなる。

「和歌ちゃん、年のこと気にしてるみたいだから、こうした方が少しでも壁が低くなるかなって」
「私が望んでるのはそんなことじゃない」
「とりあえずさ、オレのこと知ってほしいんだよね」

私の言ったことなんてまったく聞いてない。
これだから年下って・・・。
私がそう思ってることなんてお構いなしに桜太は勝手に話し続ける。

「今日、お昼一緒に食べようよ。お昼休みになったら和歌ちゃんの教室行くから待ってて!」
「ちょっ・・・!なんで私がアンタと・・・・・・!」
「じゃ、またお昼にね♪」

ホンットに私の言うこと聞こうともしないで
先に走って行ってしまった。
なんて勝手なヤツ!
どこがあやの言う“いいヤツ”なの!?



キーンコーンカーンコーン♪

桜太が来ると言ったお昼休みがやって来た。

「今日は天気いいしさ、屋上でお弁当食べない?」
あやがそう提案した。
「うん!外で食べると3倍増しでおいしいもんね♪」
まどかも即同調する。
私も桜太と鉢合わせる前にどこか別なところへ行けるのは都合がいい。
願ってもない提案だ!
「んじゃ、早く行こっか!」
私、そそくさとお弁当出しちゃう。

「あ、でも、あたし、飲み物買いたいから食堂行かなくちゃ」
「私もジュース買いたい!」
あやとまどかは飲み物を欲し始める。

私たちの教室は3階建て校舎の3階で
食堂は1階、屋上はもちろん上。
桜太の教室があるのは2階だし
あんまり下には行きたくない。
うろうろしてたら鉢合わせちゃうかもだ!

「私は先に屋上行ってるね!」

私はひとり
あやとまどかが食堂へ行く準備をしているのを尻目に
そそくさと屋上へ向かった。

「なーにあんなに慌ててんの?あの子」
あやのそう言った声が聞こえた。


屋上へ続く階段を上って
外へ続く重い扉を開けると
さわやかな風・・・
と言うか、一瞬の突風が
建物の中に一気に流れ込む。
その扉を抜ければ
風は穏やかで
空はよく晴れていて
ホントに気持ちのいい日だな。
それなのに 私以外
誰もいない。

「ラッキー☆」

いつも私たちが屋上でご飯を食べるときに陣取る場所に
レジャーシートを広げて座る。
レジャーシートが飛ばされないように
四隅にはテキトーに持って来た重石を置く。
用意がいいでしょ?
風が穏やかと言っても
やっぱり屋上だし
レジャーシートなんて軽くめくられちゃうもんね。

「お腹空いたし・・・先食べちゃおうかなっ」

私、ひとりレジャーシートに座って
お弁当を開ける。

「ハンバーグにからあげまで入っちゃってるよ!今日は豪華だな、いただきますっ!」

そう言って
まずはハンバーグにパクつく。

と・・・

「和〜歌ちゃん♪」

今朝聞いた声にフレーズが
突然耳に飛び込んできた。