私、畑野まどか(はたの まどか)。
4月に高校に入学したばかりの1年生。
性格は・・・自分でもイヤになるほど内気・・・。
さっき声かけてくれた男の子は
帆風良輔(ほかぜ りょうすけ)くん。
私の通う北浦高校の隣駅にある富林高校に通っている。
中学の時からずっと片思いしてる男の子・・・。

あれは中2の時――
席替えで帆風くんと隣の席になった。
それまでの帆風くんとはほとんど関わりがなく
クラスでもそんなに目立つ存在ではなかったので
どんな人なのか、全然と言っていいほど知らなかった。

帆風くんは忘れ物が多かった。
とりわけ多かったのが
「やばっ!教科書忘れた!悪いけど、見せてもらっていい?」
教科書をよく忘れる帆風くんだったけど
いつも教科書を真剣に見て、授業もしっかり聞いていた。
だから、成績も結構よかった。
それに感化されたのか、私も教科書をきちんと見るようになった。

そんなある日
「アンタたち、デキてんの?いっつも寄り添って教科書見てんじゃん!」
と、後ろの席の友達に言われた。
そんな風に見られてたなんて!
「そんなわけねーじゃん!なぁ!」
帆風くんが私に同意を求める。
「う、うん!!」
私も力強くうなずく。

この時はホントに帆風くんのことはなんとも思ってなかったんだよね。
でも、きっかけになったのは確かで
それから意識するようになって・・・
自分の気持ちに気付いた時には
もう次の席替えが迫っていた。

席替えをしてからはほとんど話すこともなくなってしまい
3年のクラス替えでは離れてしまったので
余計に関わりがなくなってしまった。
でも、私の気持ちが消えることはなかった・・・。

卒業式の日
告白するような勇気も全然なかった私。
後ろ髪をひかれるような思いを残したまま
学校を出ようとした時
「畑野!バイバイ!」
帆風くんがとびっきりの笑顔で声を掛けてくれた。
それだけで嬉しくて・・・
泣きそうなくらい嬉しくて・・・
私はやっぱりこの思いを断ち切れそうにないと思った。


あれから2ヶ月
こうやって会えるなんて夢にも思わなかった・・・。

「畑野は帰り、いつもこの時間?」
私は帆風くんに言われるがまま、緊張しながら隣に座っていた。
「あ、うん・・・部活ない日はだいたい・・・」
「部活ってやっぱ家庭科部?」
「そうだけど・・・やっぱって・・・?」
「中学ん時、家庭科部だったじゃん」
覚えててくれたんだ・・・。
嬉しい・・・!
「畑野、すげー家庭科得意だったよなー。オレもずいぶん世話んなったし」

これと言って取り柄のない私だけど
家庭科だけは得意なんだよね。
小さい頃からお母さんのお手伝いしてたおかげかな?
調理実習やお裁縫の時
帆風くんはすごく私を頼ってくれて・・・
それも好きになった要因だったりする・・・。

「オレ、バスケ部なんだけどさー、月曜日は練習休みなんだ」
高校でもバスケ続けてるんだ!
「あとは土日も全部練習!これが結構キツイんだ〜」
帆風くんがニカッと笑う。
私、その笑顔にドキッとしちゃう。
「でも、確実にうまくなってるの自分でも分かって、すっげー楽しい!」
帆風くん、ホントに楽しそうに話してくれるな・・・。
私も嬉しくなっちゃう。
そういえば、少し背も伸びて大人っぽく、カッコよくなったかも・・・。
2ヶ月しかたってないのに、こんなに変わるんだな。

その後も帆風くんはたくさん話してくれたけど
緊張しっぱなしの私は相槌を打つのに必死だった。